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【幻の兵器】当時の日本機としては破格の高性能だった「震電」

 戦局挽回の期待を担いながら、不運にもその能力を発揮することが無いまま敗戦を迎えた、いわゆる幻の高性能機はいくつかある。中でも、この震電はエンテという特異な形式を採用したこととあいまって、多くの航空機マニアから特別な存在と認識されている。

 もともと、震電の開発は鶴野技術少佐をはじめとする一部の技術者が空技廠内で進めていたもので、あえて言うなら空技廠のプライベートベンチャーであった。そのため1939年に立案された海軍の実用機試製計画には震電となる十八試局地戦闘機がなく、開戦後の1943年にまとめられた陸海軍共同試作機計画にも登場しないが、同時期には航空本部で開発が決定されていたようだ。というのも、同じ1943年にはソロモン方面のガダルカナルから撤退を余儀なくされており、中部太平洋方面にアメリカが拠点を確保した場合、日本本土までもが爆撃圏内に入る恐れがあった。そればかりか、帝国陸軍情報部が予想した米新型爆撃機の性能を考慮すると、当時の日本には陸海軍のいずれにも迎撃可能な戦闘機が存在しておらず、一刻も早く高高度迎撃機を開発する必要があった。

 しかし、当時の日本には高高度飛行に不可欠である実用的なターボ過給器エンジンが存在していないなど、開発には大きな困難が予想された。そのため、これまでの常識にとらわれない、革新的な迎撃機を開発せねばならないとも考えられていた。もちろん、エンテ形機は革新的な迎撃機となりうる可能性を大いに秘めており、開発に期待を寄せる関係者もいたが、他方であまりにも革新的過ぎる形態であるがゆえに、実用化を危ぶむ声も少なくなかった。

 翌44年になり、ようやく十八試局地戦闘機として九州飛行機へ開発が内示されたが、戦闘機の開発経験が全く無い九州飛行機へ開発を内示したのは、三菱や中島といった主要メーカが軒並み多機種の開発や現用機の改良で手一杯だったためで、空技廠自体も既存機の改良で多忙を極めており、開発余力が無かったというのがその理由であった。

 要求と同時に正式名称も「震電」に決し、通常ならば設計段階だけでも1年半はかけるところを、わずか3か月で終了させるというスケジュールに対して、九州飛行機のスタッフは文字通り不眠不休の突貫作業で応えた。そのかいもあって1944年11月には試作機の製作に着手するなど、基本的には順調に開発が進行していた。だが、開発作業はしばしば空襲によって中断を余儀なくされ、下請けに発注した各種電装品などの重要部品も生産が滞りがちになった上、同年12月に発生した東南海地震によって名古屋の三菱が被害を受け、エンジンやプロペラの生産も滞るという事態に直面した。

 しかし、翌年には6月にはついに原型初号機が完成し、翌7月末には鶴野技術少佐自らが操縦桿を握って最初の飛行試験も行われたが、地上滑走中にプロペラを破損して飛行は中止された。不幸中の幸いだったのは、既に工場には完成間近の原型2号機と3号機があったため、プロペラを取り寄せられたことだった。修理が終わった初号機は無事に飛行したが、残念ながら全力飛行試験は実施されないまま敗戦を迎えた。肝心の速度性能については未知数のままとなったが、試験段階で特に目立った問題も見つからなかったため、実用性に関しても大いに期待の持てる機体だったとされている。

 ただし、問題は実際に予定性能を発揮できたかどうかで、率直に言って悲観的にならざるを得ない。特に問題なのはプロペラ効率が著しく悪化している可能性が高いことで、主翼後縁から発生する乱流がプロペラの吸い込み効率を下げているうえ、小直径のプロペラで大馬力を吸収するため六翅としたこともあり、エンジン出力の割に推進力は低かった可能性が高いのだ。よく、エンテ形の利点としてプロペラを推進式に配置することが容易で、推進式プロペラは後流が機体によって妨げられないため効率がよいとされるのだが、後流が妨げられない代わりに吸い込み効率が悪化するため、よほど機体や主翼の設計に配慮しない限り、後流による効率上昇分を上回る損失が発生するためである。

 結局、ひいき目に見ても速力は600キロ台の後半から700キロそこそこに落ち着いたのではないかと思われるが、もちろんそれでも日本機としては破格の高性能であり、実戦に参加していれば30ミリ機関砲の威力とあいまって、戦史にひとつのエピソードを提供しただろう。

 結局、震電は全速飛行試験を実施しないまま敗戦を迎え、資料の大半は焼却、廃棄されたほか、完成間近だった原型二号機と三号機も破壊された。ただ、原型初号機のみはアメリカ軍に接収され、現在はアメリカ国立航空宇宙博物館のポール・E・ガーバー維持・復元・保管施設にて分解状態のまま保存されている。

(隔週日曜日に掲載)

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