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夕日のキレイな海辺の町に現れる奇妙な家族の正体は…【実話怪談】

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画像はイメージです

 Rさんは、某海岸近くに住んでいる。駅から海岸に通じる古い商店街で、3代続くお店を経営している。本業はお堅い商売なのだが、現在は副業でマリングッズを扱い、爆発的な売れ行きで最近すこぶる羽振りがいいらしい。

 「山口さんも、心霊や妖怪調査の帰りに、うちの近くに来たらぜひ寄ってくださいね。何かおいしいものごちそうしますよ。心霊談でもしながら一杯やりましょう」

 そんな心霊好きのRさんが語る奇談を紹介しよう。

 Rさんが住む某海岸は、風光明媚な海岸で、季節に関係なく多くの観光客が訪れる町であった。

 「この海岸はねえ、夏には夏の顔、秋には秋の顔があるんですよ。どうしても夏だけのイメージがありますが、秋や冬も感慨深いものですよ」

 Rさんは日焼けした顔をくしゃくしゃにして、いつもこう語る。

 いつごろか、そんな海辺の町に奇妙な噂が立ち始めた。夕暮れに奇妙な家族を引き連れた男が、海岸にときどき姿を現すのだという。出会って恐怖のあまり、腰を抜かした者もいるらしい。

 「じゃあ、どんな奴らなの?教えてよ」

 Rさんが商店街の仲間たちに聞いても、みんな大きくかぶりを振ってこう言うのだ。

 「とんでもない、思い出したくもないよ。とにかく一度見たら分かるよ」

 (なんだ、臆病だな。全く、バカバカしい話だ。単なる変わりもんの一家だろうよ)

 Rさんは、笑ってその噂を相手にしてなかった。

 ある年の秋、Rさんは、その奇妙な一家と遭遇する。

 夕暮れ時、車椅子を押した男が海岸沿いの歩道を歩いていた。犬の散歩で通りがかったRさんは、男に思わず声をかけたという。

 「こんばんは、いい風ですね」

 「ええ、病気の妻にはもってこいですよ」

 男は覇気のない声で答えた。横顔もいくぶん青ざめて見える。

 (妙な奴だ。奥さんの看病疲れで顔色が悪いな、奥さんの気分転換で海岸まで来たのか)

 「そうですね。寒くならないうちは気持ちのいい風ですよ」

 Rさんはそう返すと、車椅子の奥さんの方を見つめた。

 「…んんっ?」

 人形である。人間ではなく人形であった。

 明らかにビニール製の人形が衣服を着せられ、車椅子にのせられていた。

 いや、縛り付けられていると表現した方が正解かもしれない。

 「うちの子供は砂で遊んでますよ」

 男は指さす方には、海辺の砂浜に突き刺さった市松人形の姿があった。

 (こいつは異常だ、明らかに変だ)

 Rさんは男に適当にあいさつすると、犬と共に商店街方面に逃げ帰った。

 男の姿が小さくなるにつれ、人形という偽装家族しか愛せない男の背中がなんともいえず、悲しく不気味に見えたという。

(山口敏太郎)

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