矢野燿大監督(50)ら首脳陣と挨拶を交わし、打撃ゲージ後方に陣取る。そこへ新人の近本光司と木浪聖也が駆け寄り、直立不動で自己紹介をする。掛布SEAは笑顔で対応した。
有力OBの訪問は、キャンプには珍しい光景ではない。しかし、この空気…。今春の阪神キャンプは、ひと波乱起こりそうである。
「矢野監督の脇を固めているコーチスタッフは、二軍からの昇格者も多いので、掛布氏ともツーカーの関係です。その掛布氏が存在感を示したことで、阪神OBは溜飲を下げたのでは」(ベテラン記者)
掛布SEAの表敬訪問よりも4日早い同5日、トラ史上初のシーンが見られた。山本昌、川上憲伸、山﨑武司の中日OB3氏が揃って現れ、若トラたちを指導したのである。
「表向きは取材です。山本氏は関西のテレビ局に解説者の席も持っているのです。川上、山﨑両氏は山本氏のスケジュールに合わせての宜野座入りでした」(在阪記者)
中日の有名OBが日程を合わせた理由は、矢野監督にある。タテジマを着て現役生活にピリオドを打ったが、もともとはトレードで中日から移籍してきた“外様”だ。中日出身の清水雅治コーチをヘッドコーチとして招聘したように、今も中日OBとは強い関係で結ばれている。
山本昌氏は才木浩人、飯田優也、小野泰己にスクリューボールを伝授し、川上氏も浜地真澄にカットボールを教えていた。伸び盛りの彼らが今季活躍すれば、「2人のおかげ」ということになる。
「フロントやコーチたちは、ありがたいと言っていましたが、山本氏らは自分たちが“出すぎたらどうなるか”分かっているはずです」(前出・ベテラン記者)
掛布SEAの訪問は中日カラーが強まることへの危機意識もあったのか、いつも以上にメディアにリップサービスもしていた。
「前任から数えて2代続けての外様監督ですからね。金本知憲前監督が就任した4年前、関西メディアの力関係が変わったんです。どのテレビ局も阪神OBを抱えていますが、金本前監督と親しい下柳剛氏がナンバー1の売れっ子となり、タテジマ一筋のOBに取って代わるようになりました。矢野監督を取材するにあたって、年齢も近く、現役当時を知っている人となると、中日OBにお願いすることになりそうです」(TV局スポーツ部員)
解説の仕事も減ったとなれば、阪神OBたちの機嫌を損ねるのは必至だ。
「阪神OBたちが気にしているのは、将来の幹部候補と目される鳥谷敬の復活です。矢野監督は鳥谷を気にかけているので問題はないが、あとは藤浪晋太郎次第でしょう」(前出・ベテラン記者)
鳥谷はショート帰還の直訴が叶い、ヤル気になっている。しかし、藤浪晋太郎は今年も心配の種だ。ただ、どこを指して「復活」というのか、そのノルマは人によって異なる。
「先発ローテーション入りも怪しいですが、2ケタ勝利で合格とする声もある。また、実力からして15勝、フル活動しなければダメだとする向きもある」(同)
矢野監督も“Aクラス復帰”だけでは許されない。トラOBは存在感を発揮するために激励と称し、現場首脳陣と藤浪に厳しいノルマを課していくようだ。