田中角栄「名勝負物語」 第二番 福田赳夫(1)

社会 週刊実話 2018年09月24日 06時03分

 「福田は平手造酒、インテリ浪人だ。欠点は取り巻きの話を聞き過ぎること、太刀筋は鋭いが立ち上がりが遅いこと。福田が長ドスに手を伸ばす頃、オレはすでに板戸を蹴っ飛ばして殴り込みをかけてるよ」

 尋常高等小学校卒で実社会に出、明敏な頭脳と努力で這い上がってきた田中角栄と、若くして秀才の誉れ高く、東大法科から「官庁中の官庁」大蔵省(現・財務省)へ入って最大の出世コース主計局長のイスにすわった福田赳夫は、生まれも育ちも違っていた。年齢もまた、田中が福田より13歳年下である。

 この二人、1970年代から80年代にかけての十数年間、時に神経戦で、時に激突と厳しい政争を繰り広げてきた。これは永田町でいわく「角福戦争」と呼ばれ、戦後政治史上最大の権力闘争として位置づけられている。

 さて、この「角福戦争」は、佐藤栄作のあとの総理の座を争った昭和47年(1972年)の熾烈を極めた「角福総裁選」を「第1ラウンドとしている。“実弾(札束)”が飛び交う、生臭い「死闘」を繰り広げたものである。そしての「第2ラウンド」は、その後、総理となった田中が金脈問題で失脚、三木武夫が後継指名を受けて総理の座についたが、三木はやがて発覚したロッキード事件で田中と対立した。その三木が党内抗争にもまれ、追い落とされたあと福田が手を挙げたことで、こんどは田中が「闇将軍」としての影響力を保持するための盟友関係にあった大平正芳を擁立、ここで再び福田との全面戦争となったということである。

 しかし、ここで注目すべき点は、権力を握る争いではあっても、田中は決して完膚なきまで相手を叩きのめすことはせず、戦いが終わればまた手を握る余地を残していたことにある。ために、田中と福田の間にも、「戦争」後に抜き差しならぬという陰湿な関係は回避されている。まさに、「敵」との向き合い方一つで、人生は大きく変わることが多いということである。

 権力闘争とは、政治が「政(まつりごと)」とされるように、政治家個々のエネルギーが徒党を組んだ場合、ワッショイワッショイでまさに「祭」、負けてなるかとなる。そうした中で、この「角福戦争」に対する田中の福田への思いを忖度した二人の証言がある。ここで明らかになるのは、死力を尽くしての権力闘争の勝利ではあったが、田中のなかに福田に対する怨念はなかったという点である。

★強烈な学歴コンプレックス
 長く田中の傍らにいて、常に田中の思いを受け止めていた秘書の早坂茂三は、田中の死後、その著で「第1ラウンド」での田中の心境を、“田中の弁”として次のように明らかにしている。
「そりゃたしかに、あのときは福田君と私が総裁の座を争うことにはなった。しかし、これは時の状況がそうさせたんでね、私が好んで争ったわけじゃない。大体、福田君に、私はライバル意識なんぞ持っちゃいないよ。(総裁選まで)様々なことはあったにせよ、私は福田君に怨念はない。福田君も、また同じだったと思う。

 ただね、福田君を取り巻く人たちはあるかも知れない。『田中はオヤジ(福田)より13年も遅く生まれてきたくせに、東大も出ねぇでなんだ』と、そんな気持ちはあるかも知らん。しかし、私や田中派のほうは怨念なんぞは、露、かけらもないよ。私はいますぐ死ぬとも思っていないし、友達(田中派)だって増えている。若い連中は、飯盛山の白虎隊みたいな純粋な気持ちで私と付き合ってくれている。そういう人たちに囲まれているとね、怨念とかいうようなドロドロしたものはなくなるんだ」(「田中角栄回想録」小学館=要約)

 もう一つは、田中と気脈を通じていた元政治部記者の弁である。
「田中から、福田に対する怨念めいた言葉は聞いたことがない。そのうえで、『角福総裁選』に田中をあえて突き動かしたのは、福田に対する強烈な学歴コンプレックスがあったと思われる。一高、東大卒、そのうえ大蔵省のエリート中のエリートという国民の信頼感に対する反発だ。地べたを這いつくばってのし上がってきた田中のなかにあったのは、“負けてたまるか”精神の一点にあったように思われる」

 そしての「第1ラウンド」、「角福総裁選」への突入であった。
 大蔵大臣として大蔵省を手中に収め、5期の幹事長職を務めて自民党内への影響力を確実にしていた田中は、「沖縄返還」を花道として佐藤栄作首相の退陣が確実視された昭和45年(1970年)頃には、陣笠代議士の頃から愛人にして二人三脚で政治活動をともにしてきた秘書の佐藤昭子にこう言っている。
「総理の座などは、なろうとしてなれるものではないし、なりたくないと思ってもやらねばならぬこともある。運命だ。オレは、やる。オレが負け戦をするかい」

 田中の持ち前の“負けてたまるか”精神、事にあたっては何事にも全力投球の姿勢が全開となるのは間もなくだった。_=敬称略=
_(この項つづく)

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小林吉弥(こばやしきちや)
早大卒。永田町取材49年のベテラン政治評論家。抜群の政局・選挙分析で定評がある。著書に『愛蔵版 角栄一代』(セブン&アイ出版)、『高度経済成長に挑んだ男たち』(ビジネス社)、『21世紀リーダー候補の真贋』(読売新聞社)など多数。

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