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世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 ★第292回 コンクリートにも、人にも

 10月5日、立憲民主党の枝野幸男代表が札幌市内の講演で、
「消費税を今上げるだなんて、この社会経済状況でとても考えられない。(中略)私たちは緊縮ではない。それは今の社会では無理だ。しっかりと必要なところに必要なお金を使う。そして、特に大衆増税は当分できない。このことを前提にして政策を進めていきたい」

 と語った。現在の日本経済を取り巻く環境では、消費税増税は不可能という点は、全くその通りである。また、「緊縮ではない」と発言したことも評価したいのだが、枝野代表は民進党の代表選(2017年8月)において、社会保障の充実を訴え、財源として赤字国債発行を主張しながら(ここまでは評価できた)、
「道路を造るより直接消費に結び付く賃上げの方が投資効果は大きい」

 と、交通インフラの整備を否定する持論を展開した。無論、社会保障の充実は否定しないが、そのために「道路を建設するのをやめる」のでは、財務省のプライマリーバランス路線そのものだ。つまりは、緊縮財政である。

 現在の日本に必要なのは、
●消費税増税の凍結
●社会保障は赤字国債で(デフレ脱却後は、増大する税収を財源とする)
●建設国債を増発し、道路や鉄道、防災インフラに投資する
 である。

 立憲民主党が旧民主党時代の「コンクリートから人へ」から、「コンクリートにも、人にも」の発想に転換できるのか、注目している。

 ところで、かつての民主党のスローガン「コンクリートから人へ」の「人」とは何だったのだろうか。具体的な政策としては「子ども手当」であったため、所得移転政策になる。

 今後の日本に必要な「人のための政策」は、まずは介護報酬と診療報酬の積み増しが絶対的に必要である。つまりは、社会保障の充実だ。介護士や看護師の処遇改善なしでは、わが国の社会保障サービスは存続しえない。その上で「今後、深刻化する人手不足を補う生産性向上のための投資」という形の「人」への支出が重要になる。所得移転ではなく「投資」が重要なのだ。

 緊縮財政が継続し、政府も民間も、誰もかれもが予算をケチる時代が20年以上も続き、わが国の人材の劣化は、まさに目を覆いたくなるレベルに至っている。

 当たり前だが、人材の育成は投資になる。投資である以上、
「将来のために、今、おカネを支出する」
 ことが必要なのだが、緊縮思考はこの「将来のための投資」を不可能にするのだ。

 もっとも、少子高齢化に端を発する生産年齢人口比率の低下は、人手不足をひたすら深刻化させていく。つまりは、「人材」に投資せざるを得ない時代が訪れたのだ。
「人を安く買いたたき、生産性向上のための投資もせず、労働集約的にサービスを安値で供給することで儲ける」
 というデフレ型ビジネスモデルは、もはや通用しない。

 わが国は'97年の橋本政権による消費税増税、公共投資削減といった一連の緊縮財政により経済がデフレ化。人が安く買いたたかれる時代が始まった。

 経営者は設備投資をせず、資本装備率は低下。日本経済は次第に労働集約的になっていき、技術や設備ではなく「人の根性」で「安く良い品質の製品・サービス」を提供するという狂気の状況に至った。いわゆる「ブラック企業」でなくとも、経営者が生産性向上の投資を怠り、日本人の労働力に対し、過剰に依存することで生産を成り立たせていたことに変わりはない。

 外国人観光客が、なぜ日本に殺到するのか。それは、良い品質やサービスが異様に安いためである。読者は驚くだろうが、一部のサービスについて、日本はすでに東南アジアよりも安くなってしまっている。(しかも、品質が良い)

 日本国民は、デフレにより貧困化した。ところが、確かに日本人の「優秀性」あるいは「勤勉性」というものは存在し、低価格の製品やサービスであっても、相対的に品質は高く維持されている。外国人観光客が「安く良いものが手に入る」と、日本国に殺到するのも無理もない話だ。

 無論、日本経済の生産性が継続的に上昇し「少ない人数」で「良い製品、サービス」を「安く」提供できていたならば問題はない。生産性が高まれば、実質賃金は上昇する。ところが、現実には日本国民の実質賃金は下がり続けた。デフレという過酷な環境の中で、日本国民は安い給料で良い製品やサービスを生産することを続けてきたのだ。

 '97年以降(厳密には'97年の第二四半期以降)、日本国民の実質賃金は下がり続けた。すでに、ピークと比較してマイナス15%である。もっとも、少子高齢化、生産年齢人口比率の低下を受け、もはや「優秀で真面目な日本人を安く買いたたける」時代は終了した。今後、日本でビジネスを展開するならば、経営者は生産性向上のための投資を再開すると同時に、「人を高く雇う」必要があるのだ。そして、それこそが日本国民の豊かさにつながる。

 ところが、多くの経営者はいまだにデフレマインドに冒されたままで、「人を安く買いたたく」ことのみを求め、資本主義に必須の「リスクを伴う生産性向上のための投資」に乗り出そうとしない。ただし、経営者が短期的発想から抜け切れず、「人を高く買う」ことに踏み切れない気持ちは分かる。

 だからこそ、政府が「人を育てる」ための投資に、大々的に支出しなければならない局面なのだ。今後の日本は、人を「大事に育てる」という発想なしでは、ひたすら衰退する一方である。現役世代が持つ貴重な生産ノウハウも、若年世代に受け継がれないまま終わり、最終的には発展途上国化だ。

 日本政府は、コンクリート(防災インフラ、交通インフラ)を強化し、社会保障を充実させると同時に、「人を育てる」ための予算を増やす必要がある。コンクリートにも、人にも、という発想が政治家に求められているのである。

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みつはし たかあき(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、分かりやすい経済評論が人気を集めている。

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