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【不朽の名作】伝説のハンガーヌンチャクが誕生した武田鉄矢主演作「刑事物語」

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 おそらく、現在30代後半から40代の人間ならばマネしたことがあるのではないだろうか? 今回紹介するのはあの「ハンガーヌンチャク」が初登場した作品、1982年公開の『刑事物語』だ。

 同作は、1982年から87年まで全5作公開したシリーズ作品の第1作目となる。特徴は武田鉄矢が主演・原作・脚本(原作・脚本は武田のペンネームである片山蒼名義)を担当したセルフプロデュース作品だというところにある。

 その影響で、シナリオに関しても武田の考える道徳観・価値観というものが随所に盛り込まれており、人によっては鼻につく展開かもしれない。武田そのものがキャラに合うか否かで、この作品の評価は大きく分かれる。どこを切っても武田鉄矢感満載。ところどころ金八先生かよと思うほどに凄まじく説教臭い。あと、押し付けがましいまでの感動を誘う展開も、あざとくて耐えられない人には耐えられないだろう。特に同作は、シリーズの中でも最も人を選ぶ作品といっていい。

 なおこのシリーズは、2作目である『刑事物語2 りんごの詩』の評価が非常に高い。この作品ではエンタメの部分をかなり意識した作りとなっており、人情パートとアクションのバランスがかなり良くなっている。しかし、同作はテーマ的にも、現在で言うソープ嬢や聴覚障害など、扱いの難しいネタを主題に置くなど、かなり攻めた内容だ。その影響か、刑事モノドラマの人情系、アクション系両方のいいとこ取りをしようとしているが、テーマに重きを置きすぎたことで、ストーリー展開も雑な部分が多く、描写不足もあり、人情面、アクション面ともに中途半端なものとなっている。

 ストーリーは、武田演じる刑事の片山元が異動先の静岡県沼津市で、管内の連続女性殺人事件を引き起こしたと思われる、売春組織の正体を暴き成敗するというもの。片山刑事の性格としては、普段はボケっとしていて刑事に見えないが、一度正義の心に火がつくと、自身の得意技である「蟷螂(とうろう)拳」を駆使して相手をやりすぎと思われるほどバタバタとなぎ倒してしまうという、三枚目的な役付けとなっている。優しい語り口の時と、怒りの言葉の高低差が凄まじく、このあたり武田の主演で長寿シリーズとなった『金八先生』などによく似ている。風貌は若い頃のジャッキー・チェンっぽい。アクションシーンも蟷螂拳が主体なので、余計そう見えてしまう。でもこの作品、ジャッキーの『ポリスストーリー』より前の作品なのだ。意外!

 人情面、アクション面ともに中途半端とはいったが、全体的な流れとしては、破綻はしていないので、特に強く関係性などを気にしなければテンポ良く観れる作品ではある。パート2が出来すぎているので、比べてしまうというだけで。ギャグパート扱いとして、高倉健や西田敏行のカメオ出演もあり、これがまた笑える。作中の価値観が受け入れられるかによるが、バカ正直な熱い男の主人公が活躍するという、最近の創作物ではあまり見なくなった展開も、今だからこそ好感が持てるかもしれない。

 アクションシーンに関しては、かなり良い。拳法家の松田隆智から習ったという蟷螂拳がかなり活かされており、投げ技に関しては武田が元々得意としていた柔道の動きが盛り込まれているので、かなりの迫力だ。殺陣に関してはカンフー映画や特撮作品などに比べると若干遅めなのだが、一撃が重そうな感じがかなり出ている。現在の武田しか知らない人は驚くことだろう。シリーズ1作目ということで、コメディー要素も強いハンガーヌンチャクの尺が少ないのは残念だが、それでもかなり観ていて楽しいシーンには仕上がっている。

 そしてこの作品の魅力の大きな部分はラストシーンにある。シリーズ通して、マドンナポジションの女性を守りきってクライマックスとなるのだが、毎回様々な理由で、マドンナとはくっつかずに終わってしまう。第1作目では、異動になる前の福岡のパートで、片山が特殊浴場のガサ入れに参加した際に保護した聴覚障害者の風俗嬢・三沢ひさ子(有賀久代)がその役どころ。身寄りがないということで、沼津で同棲までしていたのに、最後には、同じ聴覚障害者である村上努(田中邦衛)の元に行ってしまう。海岸に行き3人で話しあうのだが、武田と田中で泣き演技合戦をしているのではと思うほど、両者ぐしゃぐしゃな表情が印象的だ。正直いって狙いすぎ。しかし、小難しい心理描写を超越した、妙な説得力がある。このあたり主人公が熱血漢だから良い雰囲気になるのだろう。東宝は松竹の『男はつらいよ』シリーズを強く意識して、同作のシリーズ化を狙っていたそうだが、『男はつらいよ』とはまた違った別れの切なさがある。

 そして、三沢と村上の気持ちを理解して2人に背中を見せ、片山が去る時に流れる吉田拓郎の『唇をかみしめて』。この曲の入り方が絶妙で、熱い男が見せる哀愁が感じられ、それまでの雑とも思える話の運びや、全体的に感動させようと狙いすぎな展開が、全て許せてしまう。凄くいい作品とは言い切れない部分はあるが、観て良かったと強く感じさせてくれる作品ではあるだろう。何度も言うが、作品の強烈な“武田鉄矢感”をある程度許容できればという条件つきではあるが。

(斎藤雅道=毎週土曜日に掲載)

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