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やくみつるの「シネマ小言主義」 ★歌もダンスもない、インド映画の現在形 『ガンジスに還る』

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提供:週刊実話

 世界的に隆盛を誇るインド映画が、一周回って取り組んだ、誰にでも訪れる「死」というベタなテーマを描いた作品です。

 不思議な夢を見て死期を悟り、「インドの聖地バラナシへ行く」と突然宣言する父。戸惑いながらも付き添う息子。2人の数カ月間を描いた本作を見ていると、まるでドキュメンタリーかと思う感覚に陥りました。

 というのも以前、私もバラナシに行ったことがありまして、生と死、清と濁、洗濯場と死体焼き場などが混在している、あの猥雑な状態が「まさに!」という感じで映像になっています。

 というか、実際に行くと、もっとグッチャグチャでした。日本人は、あれほど剥き出しの「死」を身近に感じることなく生きていますし、死を扱う場所はむしろ静謐であってほしいという気持ちがあるので、やっぱり引いちゃいますね。

 ガンジスは「聖なる河」と言われていますが、インドの人には申し訳ないけど、“だったら水はもう少し清くてもいいんじゃない?”と思うほどの濁り方です。ましてやそれを、「聖水」として飲む習慣があるなんて、初めて知りました。

 私は世界の辺境地を旅して回るのが趣味で、足を運んだ有名な河川の水を少量持って帰り、ミニフラスコに密封して保管しているんです。しかし、さすがにガンジス河は汲む気がしませんでした。ナイル川、アマゾン川、メコン川、コンゴ川などはあるんですけどね。

 そして、映画のワンシーンにもありましたが、「ブージャー」という祭りがほぼ毎日行われているんです。まるで、暮れのアメ横の人口密度のまま限りなく広げて、車と牛と野犬をぶち込んだような凄まじい混乱ぶりです。

 一方、現代インドはIT大国でもあり、先進的な顔もあります。本作ではIT企業に勤める息子がその一面を担って、世代間のギャップを表現しています。最初はしぶしぶ付いてきた息子が、まだ死は遠いと思って一時帰宅していた隙に、父は願い通りに旅立ってしまいます。もっとこうしてあげていればと後悔する息子に激しく感情移入しました。

 『親孝行したい時には親はなし』。こんなことわざは、常識として知っていたはずなのに、その立場になって初めて、その意味が分かる愚かさは、自分も母の死で体験しました。知っていたんだから何とかなりそうなものですが、不思議と親が生きている間はできないんですよね。

 それにしても、本作の父親がなぜ亡くなったのか死因は描かれません。まさか、ガンジス河の生水を飲んだせいじゃないですよねぇ。

画像提供元:(C)Red Carpet Moving Pictures
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■『ガンジスに還る』監督・脚本/シュバシシュ・ブティアニ 出演/アディル・フセイ、ラリット・ベヘル、ギータンジャリ・クルカルニ、パロミ・ゴーシュ、ナヴニンドラ・ベヘル、アニル・ラストーギー 配給/ビターズ・エンド 岩波ホールほか全国順次公開中。■ある日、不思議な夢を見て自らの死期を悟った父・ダヤは、ガンジス河畔の聖地・バラナシへ行くと家族に宣言する。家族の大反対をよそに、決意を曲げない父。仕方なく、仕事人間の息子ラジーヴが付き添うことに…。辿り着いたのは、安らかな死を求める人々が暮らす施設、解脱の家。施設の仲間と打ち解けながら、残された時間を有意義にすごそうとするダヤ。はじめは衝突し合うも、雄大に流れるガンジス河は次第に父子の関係をゆっくりとほぐしていく。果たして、ダヤは幸福な人生の終焉を迎えられるのか―。

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やくみつる:漫画家。新聞・雑誌に数多くの連載を持つ他、TV等のコメンテーターとしてもマルチに活躍。『情報ライブ ミヤネ屋」(日本テレビ系)、『みんなのニュース』(フジテレビ系)レギュラー出演中。

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