「メンバー全員で覆面をかぶって外国人の犯罪グループを装い、現場では日本語で喋らない』と何度も打ち合わせしたにもかかわらず、トイレから婆さんが出てきた途端に大慌てして、あろうことか『ど、ど、どうしますか、田中先輩ッ!』と、ご丁寧に名前まで呼ばれたことがありましたね。また、何を思ったのか、現場でいきなり嫁からの電話に出て、『キャバクラなんかに絶対いねぇよ!』なんて痴話喧嘩を始めたり、極度の緊張からなのか急に催してしまい、侵入先のトイレにこもったまま出てこなくなるなんてヤツが本当にいますから」
とはいえ、こうした脳筋野郎に限らず、隠されているはずの金がどこにもなかったり、その時間にはいないはずの住人が思いっきりいたり、ハプニングは日常茶飯事である。
縛り上げて脅した住人が、ショックのあまり金庫の番号を思い出せなくなったり、気絶したまま目を覚まさなかったり、そんな事態も珍しくない。どれだけリハーサルを重ねても「必ずといっていいほど不測の事態が起こる」のが、タタキの現場だという。
「そういう想定外の出来事が起こった際、現場の緊張感や集団心理で興奮状態に陥って、格闘技経験者などはつい相手をボコボコにしすぎてしまったり、さらには致命傷を与えてしまったりするんです。なので僕のような指示役ってのは、現場ではむしろ“止め役、なだめ役”に徹することが大事なんです」
そして、これは金には手をつけずに逃走している江東区の事件でも例外ではなく、殺意はなかったことが明らか。高齢の住人を縛り上げた際に誤って殺害してしまい、慌てて逃げたことがうかがい知れる。
「江東区の現場で何が起こったかは分かりませんが、一番やっちゃいけない行為は複数人で力任せに相手を押さえつけること。これはそうした行為に慣れた警官隊でも、被疑者を殺してしまうことが珍しくないほど危険な手段で、相手が死ぬときは本当にあっさり死んでしまいますから」
こうした事情がまったく分かっておらず、安易な考えで強盗に入る若者が増えないことを祈るばかりだ。