この年末年始、正月どころではなかった大相撲関係者が2人、いや、その元妻も含めると3人いる。元貴乃花親方、その元妻の景子さん、それに稀勢の里だ。
相撲協会を退職して3カ月あまり。これからの去就が注目される元貴乃花親方と、離婚して2カ月あまりになる元妻の景子さんはこの年末年始、それぞれテレビ出演し、離婚に至る経緯や現在の心境などを赤裸々に語った。とりわけ、政界進出の噂も絶えない元貴乃花親方は、年末、それに1月2日と2度も出演している。
「やはり注目は、2日の瀬戸内寂聴さんとの対談でしたね。『(離婚して)1人だと物事を落ち着いて考えられる』と胸の内を明かし、これからは好きなことをしなさいと諭されると、『ハイ』とうなずいていたのが印象的でした。元貴乃花親方が出演したのは日本テレビ。景子さんがタレントの坂上忍と対談したのは古巣のフジテレビ。おそらく2人は、これからもそれらのテレビ局を中心に出演数を増やしていくのではないかと見られています」(テレビ局関係者)
こんな2人と比べると、悲壮感に溢れていたのは、もう後がないところまで追い込まれている稀勢の里だ。先の九州場所は優勝宣言までしながら初日から4連敗した揚げ句に休場。あまりの不甲斐なさに横審もついに堪忍袋の緒を切り、史上初の「激励」を下す奥の手を切った。
「横審の決議には引退勧告など3種類あります。『激励』は一番軽いものですが、これを受けて期待に応えられないと、もう引退するしかない。言って見れば、引退勧告に等しいものです。しかも、初場所には出場しろと厳命までしているんですから、稀勢の里にとって絶体絶命のピンチと言えるでしょう」(担当記者)
生き延びる方法はたった一つ、勝つことのみ。逃げ道はもうない。
しかし、あまりにも状況は悪すぎる。先場所、休場の一因になった右ひざのけががなかなか完治せず、ついに12月の冬巡業は全休したのだ。
「これが痛かった。先場所の相撲を見ても分かるように、今の稀勢の里に一番欠けているのは自信なんです。どうしたら勝てるのか、まるで分からないまま、こわごわ相撲を取っていましたから。その自信をつけるのは、巡業先でいろんな力士と真っ黒になって稽古するしかないんだけど、それをすべて休んでしまいましたからね。どうやって自信を回復させるのか。自分でもどうしていいか、分からないでいるんじゃないですか」
一門のある親方は、そう言ってクビをひねった。この出遅れや、稽古不足を取り戻すために、稀勢の里が行ったのは正月返上の猛稽古だった。
年中大忙しの相撲部屋も年末年始だけは稽古を休み、力士たちは短い正月気分を味わう。稀勢の里と同じように先場所は右ひざの故障などで休場し、厳しい局面に直面している横綱白鵬も、暮れの29日から恒例の一家打ち揃っての家族旅行へと出発している。
「初、春場所で平成も終わりだから、しっかり締めくくらないと」
そう語る白鵬が稽古を再開したのは、年明けの4日だった。これに対して稀勢の里が所属する田子ノ浦部屋の稽古納めは12月30日。正月休みはたった2日だけで、正月明けの2日には、いち早く稽古場に降りて汗を流している。
その大晦日も、元旦も、
「体がなまらないようにしないと」
と、稀勢の里はこっそり体を動かし続けていた。白鵬とは対照的な正月のすごし方だった。
3日には、暮れから続けている大関高安との3番稽古(同じ相手と繰り返し行う稽古のこと)も再開。4日には、その数が計83番に及んだ。いかに稀勢の里が復活に死に物狂いかを物語る番数だ。
ただ、この数字を鵜呑みにするのは早計だ。というのも、なかなかいい結果が出なかったこれまでも、稽古相手はもっぱら高安だったからだ。八角理事長も警鐘を鳴らしている。
「稽古相手が(手の内を知り尽くしている弟弟子の)高安1人だけ、というのはちょっと心配。それだけほかの相手とやる自信がないのかな。こういう状況なんだから、見栄も外聞もかなぐり捨ててやらないといけない」
確かに、偏るのはよくない。かと言って、出稽古するのも不安だ。
というのも、先場所前の稀勢の里は積極的によその部屋に出稽古し、北勝富士や妙義龍らに圧勝した。ところが、この出稽古で手の内をすっかりさらけ出し、本番では裏を突かれて完敗の連続だったからだ。
「出稽古作戦」は完全に裏目。今の稀勢の里には手の内を隠すなんて余裕はないのだ。思い切って他流試合を挑むべきか、それとも自分の部屋にジッと閉じこもるべきか…。
「まだ時間はあるので、(出稽古先を)考える」
稀勢の里はこう話しているが、いずれにしろ、力士生命をかけた大勝負まで残された時間は少ない。