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世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第324回 MMT対主流派経済学

 さて、MMT(現代貨幣理論)と(現在の)主流派経済学の関係というか“対立”について解説する。

 メディアではMMTについて「異端」と表現されているが、とんでもない話だ。MMTはケインズ、シュンペーター、ラーナー、ハイマン・ミンスキー、ジョン・ガルブレイスなど、錚々たる「過去の知の巨人」たちの後継なのだ。MMT派の経済学者であるミズーリ大学のリランダル・レイ教授や、ニューヨーク州立大学のステファニー・ケルトン教授は、かつては「主流派」だったケインズ系の経済学の意志を継ぐ者なのである。

 1929年、世界大恐慌が勃発。大恐慌に端を発する超デフレーションを解決できなかった、当時の主流派「古典派経済学」が失墜し、代わりにケインズ的な考え方が主流となった。戦後から70年代まで、西側先進国はケインズ的な経済政策をとり、政府が「国民の財政主権」に基づき、需要をコントロールし、完全雇用を目指す政策により大発展を遂げる。日本をはじめ、西側先進国の経済規模は一気に拡大した。

 新古典派(旧「古典派」)など、現在の主流派経済学は、当時は「異端」だったのである。80年代以降、主流派の地位が「交代」したわけだが、再びケインズ系の経済学は「正しい」がゆえに勃興しつつある。すなわち、MMTだ。

 主流派の地位を再び奪われることに危機感を抱いた(現在の)主流派経済学者たちは、MMTについて“内容”や“中身”ではなく、主にレッテル貼りやストローマン・プロパガンダ(藁人形戦法)を用いて攻撃を繰り返している。

 MMTは、政府が財政赤字を「無限に増やせる」などとは説いていない。当たり前だが、政府の財政支出による需要拡大は、国民経済の「供給能力(モノやサービスを生産する力)」に制約される。供給能力をはるかに上回るまでに政府が需要を拡大してしまうと、インフレ率が国民生活に打撃を与えるほどに上昇する。

 MMTという「現代の貨幣の現実」に基づく政府の財政拡大の“限界”は、インフレ率なのだ。逆に言えば、政府はインフレ率が健全な範囲に収まる限り、自国通貨建て国債を発行し、需要を拡大して一向に構わない。これが、主流派経済学にとって実に都合が悪い。

 主流派経済学は、インフレを嫌悪し、さらに政府の財政出動を憎悪するという特徴を持つ。例えば、主流派の巨人の一人、ノーベル経済学賞を受賞した経済学者のジェームズ・マギル・ブキャナンは、自著『赤字財政の政治経済学―ケインズの政治的遺産』において、「政府の肥大化を阻止するためには、有権者の拡大的な要求を拒否するように、政治家を束縛する必要がある。そのために、ケインズ主義によって取り払われた『均衡財政』の予算原則を憲法に明記し、現行の利害を根本から正す立憲的な改革が必要である」と、書いている。

 主流派経済学は“政治”を信用しない。だからこそ、過去6年間、日本で「実験」が行われた「いわゆるリフレ派」は、「中央銀行のインフレ目標のコミットメントと量的緩和という金融政策」で、デフレからの脱却を果たせると説いたのだ。

 デフレーションとは、消費・投資という需要が不足する経済現象である。政府が国債発行+財政支出により需要(ケインズの言う「有効需要」)を拡大すれば、瞬く間にデフレ脱却だ。

 とはいえ、主流派経済学者は「それだけは嫌」なのだ。経済学者は元々がインフレ恐怖症で、さらに、政府の財政支出を憎悪する。

 結果的に、主流派の傍流として「中央銀行のインフレ目標と量的緩和でデフレ脱却」という「いわゆるリフレ派」政策が考案されたのだが、6年間以上も実験し、結果は無残だった。日本銀行がインフレ目標2%を掲げ、実に360兆円以上ものマネタリーベースを拡大した(=量的緩和)にも関わらず、GDPデフレータ(インフレ率)は2017年、2018年と2年連続でマイナス。日本経済は、再びデフレ化した。

 2012年から「デフレ脱却のためには政府の財政支出拡大が必要」と訴え続けてきた我々と、いわゆるリフレ派のいずれが正しかったのか、誰の目にも明らかであろう。

 MMTという黒船襲来を受け、いわゆるリフレ派の論客が、口を揃えたように、「MMTなど採用したら、インフレ率を制御できなくなる」と、ヒステリックに叫んでいる光景は滑稽極まりない。そもそも、いわゆるリフレ派は「デフレ脱却=インフレ」を目指したのではなかったのか。

 もっとも、いわゆるリフレ派が主流派経済学の傍流であることを理解すれば、彼らの奇妙な行動の理由が分かる。主流派経済学は、とにかく「財政政策」が嫌いなのである。

 というわけで、いわゆるリフレ派を含む主流派経済学者たちは、日本国内で「MMTで財政を拡大し、日本がインフレになると、インフレ率上昇を制御できなくなる」と、財政民主主義を全否定する発言を繰り返す。政府の財政の決定権は、我々日本国民が保持している。我々が主権者として財政政策を定める権利は、憲法で保障されているのだ。インフレ率が健全な範囲を超えて上昇していく局面になったならば、国民が主権に基づき政府の財政規模を縮小すれば済む話である。

 「そんなことができるはずがない! 有権者は我がままだ」と、ブキャナンさながらに主張する非・民主主義者は、早々に日本国から立ち去って欲しい。何しろ、彼らは自分たちが憲法違反丸出しの発言を繰り返していることを自覚できないほどの愚者なのである。

 日本のデフレ脱却のためには、国民がMMTを学び、正しい貨幣観に基づき「緊縮財政」という呪縛を打ち払うしかない。我々は、MMTにより自らの政治的意思により、国民経済を成長させることができる。

 主流派経済学者たちが何を叫ぼうとも、MMTは「現代の貨幣の現実」だ。現実から目を背け続ける主流派経済学には、再び“主流派”の地位から滑り落ちる運命が待っている。

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みつはし たかあき(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、分かりやすい経済評論が人気を集めている。

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