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プロレス解体新書 ROUND59 〈尻も出すが実力もある〉 “マードックvs藤波”匠同士の闘い

 選手の大量離脱によって低迷した新日本プロレスで、確固たる外国人エースがいない中、苦しい興行を支えたのがディック・マードックだった。
 タッグ戦でのアドリアン・アドニスやマスクド・スーパースターとの名コンビぶりや、藤波辰巳(現・辰爾)との試合における“尻出し”パフォーマンスなど、記憶に残る名場面をいくつも残してきた。

 ディック・マードックについて、かつてテキサス・アウトローズとしてタッグを組んだ盟友のダスティ・ローデスは、「あいつはNWA王者になるべきだった」と評した。
 確かにマードックは、プロレスラーとしてのタフネスと技量を高いレベルで備え、観客へのアピール力にも長けている。それはローデス以外にも多くのレスラー仲間や関係者の認めるところであり、長きにわたり“次期王者候補”と目されていた。

 しかし、肝心のマードック本人は王者となることにこだわらない…というよりも、むしろ避けていた節まである。
 王者となれば、それにふさわしい振る舞いが求められ、移動の際にはスーツ着用が必須。ほとんど休みなく、全米はおろか全世界を飛び回るハードスケジュールが待っている。
 試合内容においても、各地のローカルヒーローに見せ場をつくり、観客を満足させながらも必ず王座を守って帰ってこなければならない。非常に神経を使わざるを得なくなる。
 マードックはそんな堅苦しい毎日よりも、自由気ままな生き方を望んだ。王者としての名誉や高額のギャラよりも、好きなように暴れた試合の後で、人目をはばからずにかっくらう1杯のビールの方を選んだというわけだ。

 そんなマードックの奔放さについて、ジャイアント馬場は能力の高さを認めつつも「ギャラの分しか仕事をしない」と、批判的なコメントを残している。
 また、アントニオ猪木も不満に感じる部分があったようで、新日で外国人との折衝役を務めていたレフェリーのミスター高橋は、『猪木から“マードックを怒らせろ”と指示があった』とのエピソードを自著に記している。
 「当時、ファンの間でも“酒場でのストリートファイトなら最強”などと噂されていたように、猪木としても怒って本気になったマードックの凄味を見てみたかったのでしょう」(プロレスライター)
 結局、高橋は『藤波がお前のパンチはたいしたことないと言っていたぞ』とマードックを焚きつけ、試合で本気のパンチを顔面に叩き込まれた藤波は、哀れにも顔面アザだらけになったという。しかし、それも一時的な発奮に終わり、猪木の策略は失敗に終わったと言えようか。

 マードックと藤波の対戦で、多くのファンがまず思い出すのが“尻出し”だろう。場外戦からリングに戻ろうとするとき、マードックのタイツを藤波が引っ張ると、タイツがまくれて真っ白い尻がさらされた。
 最初は単なるアクシデントだったが、それが観客にウケたことで両者の間での定番ムーブとなり、のちには藤波の方が尻を出すこともあった。
 「ほかにマードックの定番としては、木村健吾との闘いで“マードックがコーナーポスト最上段に上ったときに木村がロープを揺さぶり、股間をロープに打ちつける”というムーブもありましたが、やはり記憶に残っているのは尻出しパフォーマンス。マードックは藤波のプロレスの巧さや受けのスタイルを高く評価しており、まっとうな好勝負も多かった。そのため尻出しも強く記憶に残っているのでしょう。猪木はそんなマードックのふざけたようにも見える姿勢を改めさせ、猪木流のシビアな闘いに引っ張り込みたかったのでしょうが、結局、最後までマードックの自由人ぶりを変えることはできませんでした」(同)

 とはいえ新日ファンからのマードックへの信望は厚く、いくら尻を出しても、いくら鼻柱へのパンチが寸止めに見えたとしても、それで軽んじられるようなことはなかった。
 「ブルーザー・ブロディのような巨漢パワーファイターが相手でも、前田日明のようなUWFスタイルが相手でも、マードックは自分流の試合を貫いた。さすがに尻出しなどのおふざけは少ないものの、自分なりのアメリカン・プロレスでキッチリと対応してみせた。ファンはそれが、実力に裏打ちされたものであることを敏感に感じ取ったのでしょう。これらの試合ではマードックへの大声援が起こったものでした」(同)

 前田の試合スタイルに対して「喧嘩がしたいのか、プロレスがしたいのか」と詰め寄ったとの逸話もあるが、しかし、いったんリングに上がればそんな様子はおくびにも出さない。
 「マードックは父親もプロレスラーで、若き日にはファンク道場でも修行したという筋金入り。フィニッシュ技がキラー・カール・コックス直伝の正統ブレーンバスターというところを見ても、内心ではプロレスラーとしての強いプライドを持っていたのではないでしょうか」(同)

 陽気でいいかげんそうに見えて、いざとなれば誰も恐れることなく向かっていく。古きよき時代のアメリカン・プロレスを象徴するレスラーであった。

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