短期集中連載 工藤會 野村悟総裁「獄中記」【後編】

社会 週刊実話 2019年11月11日 22時03分

短期集中連載 工藤會 野村悟総裁「獄中記」【後編】提供:週刊実話

 裁判は検察官9人、弁護団7人という異例の態勢で幕を開けた。野村総裁は証言台の前に立ち、落ち着いた口調で無罪を主張した。北九州戦争を経て、親分の仇だった溝下先代と盃を交わし、第一の子分として尽くし続けた「俠の性分」が、そうさせたのか――。

 逮捕から5年、ようやく公判が開かれることになった。裁判のことは弁護団に任せてあるので、特に書くこともないのだが、今回の起訴内容について、私は無実であることは改めて書いておきたい。

※ ※ ※

 10月23日、福岡地裁の法廷に立った野村悟総裁は、前を向き静かに口を開いた。
「4つの事件、すべてについて無罪です」

 田上文雄会長も「関与も共謀もしていません」と述べた。長い拘置所生活で白髪は目立つものの、2人とも健康状態に問題はないようだった。

 今回の公判で審理されるのは、元漁協組合長射殺事件(平成10年)、福岡県警の元警部銃撃事件(同24年)、看護師刺傷事件(同25年)、歯科医師刺傷事件(同26年)の4件で、元漁協組合長射殺事件は殺人と銃刀法違反の罪、他の3件は組織犯罪処罰法違反(殺人未遂)の罪に問われている。起訴状などによると、野村総裁らは元組合長射殺に関与し、他の3件については配下の組員に犯行を指示したとされている。

 国内で唯一「特定危険指定」を受けている工藤會ツートップの裁判は、マスコミの注目度も高く、福岡地裁周辺ではメディア関係者などが慌ただしく行き来していた。また、傍聴は抽選となり、たった18席の傍聴券を求めて約300人が並んだ。公判は検察官9人、弁護団7人という異例の態勢で、来夏まで予定されている。元組員を含め、延べ90人以上の証人尋問が行われる見通しだが、大半は検察側の証人とみられる。

 一方で、元組合長の事件をめぐって、田上会長は平成14年の逮捕後に不起訴処分となっていることから、弁護団は「公訴権の乱用に当たる」とし、徹底的に争う姿勢を示した。

 後藤貞人弁護団長は「ひと言でいえば、異様な裁判です」と話し、「実質的には元組合長の裁判に新しい証拠はない。こうした中で、裁判官は“有罪バイアス”にさらされている(有罪の心証を持っている)と危惧する」とし、「公正な審理」を求めたのである。

 前々号から掲載してきた「獄中記」でも、野村総裁は「身に覚えがなければ無実を主張するまで」と、胸中を明かしている。その背景には、激動の時代を駆け抜け、紆余曲折を経て溝下秀男先代と盃を交わした俠としての性分が、あるからだろう。連載最終回となる本稿でも、野村総裁は長年にわたって歩んだ極道人生を、こう振り返っている。

★獄中で訃報を聞き怒り狂った

 工藤會と私の歴史について、思えばいろいろなことがあった。のちに二代目田中組組長となる木村清純親分から私が盃を受けた頃は、すでに工藤組は九州では知られた存在であった。その中でも傘下の初代田中組・田中新太郎親分はスラリとした男前で気っぷがよく、孫分にあたる私も憧れたものである。あの頃は、自分が三代目田中組を継承するとは、想像すらしていなかった。昔はスターのようなヤクザが多かったが、特に小倉のヤクザは全国的に見てもレベルが高い気がする、と書いたら身びいきが過ぎるだろうか。

 新太郎親分が注目されるのは、昭和38年の紫川事件(※欄外・編集部注)以降である。九州に侵攻を始めていた田岡一雄三代目率いる山口組との対立により、山口組関係者2名が殺害された。殺人教唆の疑いで逮捕され、草野高明若頭(のちの工藤會二代目)は服役。草野若頭が留守となった工藤組を守ったのが、若手ホープの新太郎親分だった。

 工藤玄治初代に累が及ばないようにとの思いで、草野親分は獄中から独断で脱退を表明したが破門となり、当然ながら出所した時には組からの迎えはなかった。だが、対立していたはずの田岡三代目が放免祝いを申し出て、草野親分も好意を受けたことから、さらに工藤派と草野派の対立は深まってしまう。

 特に草野親分が出所したのちの昭和53年10月に草野一家を立ち上げ、翌年12月には山口組系の伊豆組・伊豆健児初代と兄弟盃を交わしたことで、空気が変わっていく。この結縁式に出席しなかった工藤派の新太郎親分が、なんと2日後に射殺されてしまったのだ。

 ヒットマンは、草野一家傘下で溝下秀男親分(のちの工藤會三代目)が率いていた極政会の若い者であった。銃撃の原因は、工藤初代ですら出席した結縁式に、新太郎親分が出席しなかったことや、少し前に溝下親分が襲撃されて2週間のケガを負ったことへの報復だったといわれている。

 この時、私は別件で服役しており、獄中で訃報を聞いて途方に暮れ、怒り狂い、荒れた。
「野村、跳んだら(ケンカをしたら)イケんぞ」

 私の様子を見て刑務官が心配したが、私は我慢できず獄中にいた草野一家の者たちをぶちのめしてしまった。獄中で官(所長から刑務官まで施設側の人間)に媚びたり、対立組織の者に気合い負けしたりしたら、ヤクザは終わりなのだ。
 こうして工藤派と草野派の対立は、より激しく銃弾が飛び交う事態となっていく。「北九州戦争」である。

 工藤・草野双方の事務所や関係者が狙われていく中、昭和56年2月4日深夜に決定的な事件が起こる。小倉の繁華街・堺町の路上で、工藤会理事長で矢坂組・矢坂顕初代と、草野一家若頭で初代大東亜会・佐古野繁樹会長が偶然にも鉢合わせしてしまったのだ。それぞれ若い者を5人連れており、酔いもあってか口論から壮絶な銃撃戦に発展し、矢坂理事長、佐古野若頭の双方が亡くなる。

 これを受けて、「見舞い」と称して工藤会側には九州の反山口組系組織の幹部が、草野一家側には兄弟分の伊豆組長など山口組系幹部が、続々と小倉市内に集結。代理戦争の様相も呈してしまったのだ。

 ところが、危機を憂慮した関東の大親分が仲裁に入って、3週間ほどで和解が成立し、手打ち式が行われた。双方の組織が合併するのは、さらにのちの昭和62年6月であった。工藤玄治総裁、草野高明総長、溝下秀男若頭、そして私、野村悟本部長による「初代工藤連合草野一家」が発足。1000人規模の九州一の組織となって、ヤクザ業界を驚かせることになる。

★恩讐を超えた必然の絆

 反山口組と親山口組に分かれていた私たちが再び合流するのだから、それはもういろいろあった。街中での銃撃戦も起こっており、暴力団追放運動もたびたび話題になった。だが、最終的には、ようやく「わだかまりを捨てて合流しよう」となったのだ。

 もちろん、工藤初代から「溝下と盃を交わせ」と言われた時は正直困惑した。初代としては「合流の礎となれ」との思いからなのだろうが、溝下先代は新太郎親分の仇である。だが、もし私が先代に対して面従腹背の態度を取ったら、周囲に必ず知れ渡り、若い者が盃を甘く見てしまうだろう。

 盃がどれだけ重いものかを若い者に示すためにも、私は先代が亡くなるまで第一の子分として仕えたつもりである。溝下先代も、こんな私を認めてくれたからこそ、後継に指名してくれたのだと思う。工藤会と草野一家の合流の過程で、溝下先代と私は、愛憎の関係に始まり、最後は恩讐を超えた必然の絆で結ばれていたと考えている。こんな私たちの姿をしっかりと見て学んでいた田上文雄を、五代目に指名することになる。

 そして、私は同じ昭和62年の秋に、二代目田中組を継承していた木村清純親分から田中組三代目を襲名するように言われた。これについても、いろいろ思いがあったのだが、謹んでお受けしたのである。

 こうやって、少しずつ組織がまとまっていった。
〈組織の合同は、北九州の極道のことを考えれば、至極当然の成り行きですたいね。まとまらんで反目しおうとったら、衰退するばかしやないですか〉(書籍『任侠事始め』より 太田出版刊)

 溝下先代は、当時のことを作家・宮崎学先生との対談で、こう振り返っている。その通りではあるが、簡単ではなかった。溝下先代だからこそできたのである。

 平成2年には、初代工藤連合草野一家が代替わりして、二代目工藤連合草野一家(工藤玄治名誉総裁、草野高明総裁、溝下秀男総長、天野義孝総長代行、野村悟若頭)となり、平成11年には三代目工藤會(溝下秀男会長、天野義孝会長代行、野村悟理事長)に改称。翌12年、四代目工藤會を私が継承し、溝下先代は総裁職に就いた。私が総裁を務める現在の五代目工藤會(田上文雄会長、本田三秀会長代行、菊池啓吾理事長、木村博理事長代行)は、平成23年にスタートしている。

 今では工藤初代をはじめ多くの方が鬼籍に入り、私も古希を迎えた。これから、ヤクザの受難の時代がどうなっていくのか。獄中からではあるが、見守っていきたいと思っている。

(※)紫川事件=山口組系組員による銃撃の報復として、工藤組系組員らが別の山口組系組員を惨殺。地元の紫川という川に遺体を投げ込んだ。

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