森永卓郎の「経済“千夜一夜”物語」 税制大綱に潜む大減税

社会 週刊実話 2018年01月09日 12時03分

 12月14日に、与党が税制改正大綱を発表した。メディアの報道は、給与所得控除の上限引き下げによる年収850万円以上のサラリーマンの増税や、たばこ税増税、出国税・森林環境税の創設などに集中している。しかし、今回の税制改正の最大のポイントをきちんと報道しているメディアはほとんどない。それが、事業承継税制の拡充だ。
 具体的には、5年以内に事業承継計画を作成し、非上場株を相続・贈与した場合には、後継者が死亡するまで、相続税・贈与税の納税を100%猶予することにしたのだ。
 しかも、後継者が死亡した場合、これまでの猶予制度では、会社を受け継いだ時の正味資産が課税対象となっていたが、今回の改正で、後継者の死亡時の正味資産が対象となることになったのだ。

 この制度改正が何を意味するのか。例えば、一代で事業を成功させ、巨万の富を築いた創業者がいたとする。これまでの税制では、創業者が亡くなると、莫大な相続税がかかってきた。ところが、今回の税制改正で、税金の納付は後継者の死亡まで猶予されることになった。
 つまり、相続時の税負担がなくなるのだ。しかも、事業を引き継いだ御曹司は、大抵の場合、創業者よりも能力が低いから、会社を食いつぶしていく。そして、御曹司が死亡した時には、スカスカになった会社の正味資産で課税するということだ。
 これは、実質的に相続税の撤廃に近い税優遇を、富裕層に与えかねない税制改正と言える。庶民が相続をすると、相続人が2人の場合、4200万円を超える財産があると、相続税がかかってくる。ところが、相続財産が非上場企業の場合においては相続税がまったくかからないというのは、あまりに不公平ではないだろうか。

 もちろん、そうした効果を見抜かれないために、税制改正大綱には、「中小企業経営者の年齢分布のピークが60台半ばとなり、高齢化が急速に進展する中で、日本経済の基盤である中小企業の円滑な世代交代を通じた生産性向上は、待ったなしの課題となっている」と、錦の御旗が掲げられている。
 それは、その通りだ。いまのような相続税を課していたら、町工場や商店街が消えてしまう。しかし、事業承継税制を富裕層の相続税逃れに悪用させてはならない。

 対策は簡単だ。事業承継税制の適用対象金額を、例えば、1億円までというように限定すればよいだけだ。そうすれば、本当の中小企業のほとんどが救われる。しかし、金額の上限が設けられる可能性はほとんどないだろう。今回の税制改正の真の狙いは、富裕層の税逃れだからだ。
 一方、中小企業向けの事業承継税制だと言いながら、本当の中小企業のかなりの割合が、この減税の恩恵を受けられない可能性がある。その理由は、税優遇を受けるために必要な事業承継計画の作成が難しいため、専門家のアドバイスを受けなければできないからだ。専門家を雇う余裕がない中小企業は、そもそも減税の対象にならない可能性が高いのだ。

 今回の税制改正も、詰まるところは、富裕層減税、庶民層増税の構図になっている。

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