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夜を棄てたキャバ嬢たちVol.3〜同時にヒモ男を棄てた奈美恵〜

 当時、40歳になろうとしていた奈美恵(仮名)が、歌舞伎町のキャバ嬢になったのにはある理由があった。男の存在である。

 奈美恵には、事実婚状態だった男がいた。男は平均的なサラリーマンをしていたし、奈美恵自身も化粧品の訪問販売で生計を立てていたのだ。しかし、長引く不況のあおりを受け男は整理解雇の対象となり、奈美恵の売り上げも落ちていた。加えて、男がうつ状態となり再就職が厳しくなっていたのだ。

 そこで、一念発起して奈美恵はキャバ嬢になる決心をする。当時の状況を、奈美恵はこう振り返る。

 「あたしが助けなきゃどうなるの? って感じでした。あたしが化粧品の売り上げに行き詰っていて苦しかった時に、あの人が励ましてくれたから今でもやっていられるんです。苦しい時はお互い様だと、本気でそう思っていましたからね」

 とは言え、40代を間近にした奈美恵に対し、夜の街は厳しかった。いくらなんでも、水商売の経験もない人を雇うはずもない。奈美恵は、あと1件ダメだったら風俗嬢になろうとまで追い込まれていた。そして、背水の陣で臨んだ面接で見事採用されることになる。

 「こんなおばちゃんを雇ってくれるなんて、オーナーはホント神様みたいです。感謝しかないから精一杯頑張らなくちゃと思いました」

 その店は、オールディーズをメインとしたショーパブでもあったため、否応なしに奈美恵は初めてのダンスに挑んだ。オーナーや先輩キャバ嬢の怒号が飛ぶ中、奈美恵は必死にダンスの稽古を続けた。だが、肝心の指名がなかなかつかない。奈美恵は、ナンバー入りしている嬢のヘルプについて、その場をつなぐのに必死だったが客の中にはヘルプを変えてくれと言い出す者もいる始末。

 それでも、奈美恵は頑張りぬいてとうとう初めての指名、同伴を勝ち取ったのだ。奈美恵は、心底嬉しそうだった。

 そんな奈美恵の頑張りをよそに、男はネットゲームにのめり込んでいった。最初は、うつ状態だから仕方ないと思っていた奈美恵だったが、深夜帰宅した奈美恵の前に、朝食べた食器がそのまま残されていることが続くようになると、奈美恵は次第に我慢が出来なくなっていく。

 そして、とうとう奈美恵は昼の職場で倒れてしまう。診断の結果は過労で、行き過ぎたダブルワークに身も心もボロボロになっていた。奈美恵は、周りの助言もあり男との同棲を解消。同時に店を辞め、また化粧品の販売だけで生活をするようになった。

 「男でも女でもそうですけど、相手の優しさに胡座をかいちゃいけないですよね。あたしの男が、ここまで落ちちゃったのもあたしが『これが限界だよ』って言わなかったせいもあるんですよね、きっと」

 ダメンズを切り捨てたことで、夜の世界を卒業するとは皮肉な話かもしれない。

取材・文/三枝めぐみ…キャバからパーティーアテンダントまでありとあらゆる水商売を経験後、小さなキャリアコンサルタント会社に入社。ライターとしても活動中。ツイッターは@MegumiSaegusa

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