どちらの政策も、少子化に歯止めをかけることを目的にしている。悪いことだとは思わないが、これらの政策は明らかに霞が関の官僚が考えた方策だ。官僚自身が、どうしたら子供を増やせるのかと考えたときに、早い時間に家へ帰ること、仕事と育児の両立ができて、さらに幼稚園や保育所が無料だったら“子育てをしやすい”と考えたことが、そのまま政策になっている。
しかし、残念ながらこれらの政策は、少子化対策としてはほとんど役に立たない。合計特殊出生率は、3つの要因で決まることが分かっている。(1)平均初婚年齢、(2)生涯完結出生児数、生涯未婚率だ。
’85年から’15年までの30年間の変化をみると、妻の平均初婚年齢は、25・5歳から29・4歳へと3.9歳上がって晩婚化している。ただし、最近4年間は、晩婚化はまったく進んでいない。一方、結婚した女性が生涯に産む子供の数である生涯完結出生児数は、’87年(’85年は調査がない)の2・19から’15年には1・94となっている。若干低下しているが、いまでも女性は、結婚すればほぼ2人の子供を産んでいるのだ。
それでは、なぜ少子化が進んでいるのか。その答えは明確だ。女性の生涯未婚率が’85年の4%から’15年には14%へと劇的に上昇した。男性はもっと極端で、’85年の4%から’15年には23%に上がっている。いまの少子化の主因は“結婚しないこと”なのだ。
結婚しないというのは、正確ではない。結婚できないのだ。国土交通省が『平成22年度結婚・家族形成に関する調書』を再集計した結果によると、20・30代男性の場合、年収800〜1000万円の結婚率は44・0%だが、年収の下落とともに結婚率は低下し、年収100万円台は5.8%、100万円未満は1.3%となった。年収が下がると、結婚が絶望的になるのだ。
労働力調査によると、’84年の非正社員比率は15・3%だったが、’15年には37・5%と劇的に上昇している。平均年収が170万円ほどの非正社員が爆発的に増えたから、結婚ができなくなったというのが、少子化の本当の原因なのだ。
だから、少子化を止めようと思ったら解決策は簡単だ。いまや韓国よりも低くなってしまった日本の最低賃金を、非正社員でも結婚ができる程度まで、大幅に引き上げればよい。
しかし、政府がやっているのは規制緩和で、派遣労働の対象分野を拡大したり、外国人単純労働者の受け入れを拡大したり、賃金を下げるような改革ばかり。
もしかすると官僚は、非正社員に結婚してもらいたくないのかもしれない。自分たちの優秀な遺伝子を後世に残すことは必要だが、非正社員の遺伝子を残す必要はないといった差別意識が背景にあるのかもしれない。もちろんそれは、間違った思想だと私は思うが、もしそう考えているなら、エリートは率先して5人とか10人の子供を作るべきだろう。そうしなければ、日本の少子化を止めることなどできないからだ。