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荒ぶる神「雷獣」に狙われた村

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画像はイメージです。

 雷獣とは、雷とともに天から駆け下りてくるといわれた幻獣である。その外見は、体長2尺前後(約60cm)の仔犬や狸に似ており、尾が7〜8寸(約21〜24cm)、鋭い爪を持っているといわれていた。滋賀県東近江市今代町には、雷獣が封じられている小さな神社があり、「雷封じの宮」と呼ばれている。

 昔、今代集落(現在の滋賀県東近江市今代町)では、この辺りだけに雷が集中的に落ちていたことがあった。老樹の幹は剥され、家屋は燃やされ、慌てて消し火に飛び出して来た村人の臍までも狙われるなど、災難続きで困っていた。
 その日も酷い夕立の後、雷が落ち、農家の藁葺屋根から黒煙が上がっていた。慌てふためいた村民が水桶を持って走り回っていた。村人に指示を出していた村長は、旅の途中の修験者を見つけて、「この村では雷の被害が多くて難渋しております。何とかなりませんか」と、すがるように訴えた。話を聞いた修験者は、暫くの間呪文を唱え、錫枝を打ち鳴らして「これらの現象は雷獣の仕業である。どうやら、この雷獣が森の巨樹に棲み付いてしまったらしい。雷獣は、人の臍を餌にして棲息しているので、今代の村人の臍はよほど美味く味を占めてしまったらしい」と言った。雷獣がこのまま野放しにされている限り、絶えず村には雷の災害はなくならない。村長はどうすれば雷獣を退治できるか修験者に 相談した。修験者は、雷獣が棲む巨樹に荒縄の網で作った罠を仕掛けることにした。

 上空に乱雲が膨れ上がって、遠来が轟いてきた。村人は、雷獣が現れるのを今か今かと待っていた。やがて、激しい雷の閃光と同時に雷獣が、網の上を跳び超えようとした。
 「それっ!」
 村人達は一気に網の口を縛り、まんまと雷獣は網の中に閉じ込められてしまった。生け捕りにされた雷獣は唸り声を上げ、網の中で暴れまわっていたが、修験者は気合一閃、錫枝で雷獣を打ちのめした。そして、村人は雷銃の骸を巨樹に逆さ吊りにして見せしめにした。すると、それに恐れをなしたのか、以後村に雷が落ちることは無くなった。

 その後、村人は二度と雷獣が棲み付かないようにと、巨樹の下に祠を建て、雷獣の魂を封じ込めた。祠は、雷除けの「封込神社」と呼ばれるようになった。現在では。「封込」が「富士」と転じて富士神社となり、火伏せ、災難除け、無病息災の神様としてのご利益がある。また、神社の側にある長寿カ院というお寺の薬師堂の天井裏にはミイラとなった雷獣が吊るされていたが、昭和36年2月27日の火災で焼失してしまった。

(画像は竹原春泉『絵本百物語』より「神なり(雷獣)」)
(皆月 斜 山口敏太郎事務所)

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