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プロレスラー世界遺産 伝説のチャンピオンから未知なる強豪まで── 「アドリアン・アドニス」日米で異なった “暴走狼”のキャラ設定

 日本においてはシングルプレーヤーとしてよりも、タッグで暴れまわった印象が強いアドリアン・アドニス。コーナーポストからのツープラトン攻撃の先駆者であり、以後、多くのタッグチームがこれを真似ている。キャリア後年にはなぜか“太ったおかまキャラ”に転向し、そちらも米マット界で好評を博したものだった。
※ ※ ※

 本場アメリカのプロレス界を見たときに、今ひとつピンとこないと感じたことはないだろうか。

 例えば、ハリー・レイスが“ハンサム”の愛称で呼ばれること。日本では美獣と訳されていたが「あのいかつい顔のどこがハンサムなんだ」と感じるファンはきっと少なくないはずだ。 「実物と真逆のニックネームを付けるというのは、かつてのアメリカンギャングの流儀を真似たもので、痩せっぽちの構成員を“ファットボーイ”と呼ぶような一種の洒落がよくあったのです」(プロレスライター)

 言われてみれば「なるほど」だが、日本人からするとすぐには理解しにくい。 「ダスティ・ローデスが人気を博して“アメリカンドリーム”と呼ばれたのも、ゴージャスな衣装で南部なまりのマイクアピールをしてみたり、ラフファイトにコミカルな動きを混ぜたり、いちいち米国人にとってツボだったからなのですが、やはり日本人には分かりづらいところでしょう」(同)

 ローデスに関しては、名前の読み方からして本国とは異なる。その英語表記は「Rhodes」でこれは近鉄や巨人に在籍したタフィ・ローズと同じものであり、正しくは「ダスティ・ローズ」と呼ぶべきなのだが、なぜか日本ではローデスで定着している。

 同様に発音と呼び名が異なる1人にアドリアン・アドニスがいる。

 アドリアンの英語表記は「Adrian」で、発音としては「エイドリアン」となる。これは映画『ロッキー』のヒロインの名前として日本でもなじみがあり(エイドリアンは英語圏では男女ともに使われる名前)、これにならって「エイドリアン・アドニス」の方がむしろ親しみやすそうなものだが、これまたアドリアンで定着している。

 1982年の新日本プロレス初参戦時には、鋲の付いた黒い革ジャンスタイルから暴走族を連想されて“暴走狼”と呼ばれたが、これもまた本国での実情とは異なるのだという。

 「実際のところは70年代後半からニューヨークで起きた、ハードゲイ・ムーブメントのギミックだったようです」(同)

 なお、日本でハードゲイ=レザーファッション(革ジャン)のイメージが一般に広まったのは、それから約20年後、芸人のレイザーラモンHGがテレビに出始めた’05年あたりのことである。

 そもそもアドニスが本名の「キース・フランク」からリングネームを改めたのは’78年のことで、その名はギリシャ神話の美少年からとったもの。男女共用のエイドリアンというあたりからも、ゲイを意識したものである可能性は高そうだ。

 「ちなみにアドニスの名付け親は、当時の大物プロモーターであるジム・バーネット。後年には同性愛者であることをカミングアウトしていて、かつてお気に入りのジャック・ブリスコをNWA王者にねじ込んだとの噂もある人物です」(同)

★新たなスタイルを模索中に早世

 ボブ・オートン・ジュニアとのマンハッタン・コンビやディック・マードックとのタッグでの“陽気なラフファイター”のイメージが強いが、改めてその顔を見ればかなりの美形であり、得意技のマンハッタン・ドロップ(正面からのアトミック・ドロップ)も、金的を狙うあたりはゲイギミックに由来するものといわれれば、そう見えてくる。

 アメリカでブレークしたジェシー・ベンチュラ(のちのミネソタ州知事)とのタッグチームも、着飾ったド派手なベンチュラと皮ジャンのアドニスとの組み合わせは“女装家とハードゲイ”ということだったか。

 80年代の後半からWWF(現WWE)において、ピンクのタイツに厚化粧の太ったおかまキャラを演じ始めたのを見て、「あのアドニスにそんなことをさせるなんて、だからアメプロはダメなんだ」と憤った日本のファンは少なくないが、アメリカマット界においてはさほど不自然なキャラ変更ではなかったのかもしれない。

 もっとも実際のアドニスは妻子持ちで、その素顔は不良少年がそのまま大人になったようだったという。

 当人もこうしたギミックには嫌気がさしていたらしく、’87年にWWFを退団した翌年、新日に久々の参戦を果たしたときには、かつての革ジャンこそ羽織っていたが、おかまキャラはすっかり影を潜めていた。

 当時、アドニスは34歳。心機一転、新たなプロレス人生を歩むため自動車でカナダ遠征へ向かう際、山道に飛び出してきたヘラジカを避けようとして、車ごと湖に転落。新たなスタイルを披露することは永遠になくなってしまった…。

アドリアン・アドニス
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PROFILE●1953年9月15日〜1988年7月4日。アメリカ合衆国ニューヨーク州出身。 身長185㎝、体重127㎏。得意技/マンハッタン・ドロップ、ダイビング・エルボー・ドロップ。 文・脇本深八(元スポーツ紙記者)

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