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【不朽の名作】宮沢りえデビュー作『ぼくらの七日間戦争』に見え隠れするモノ

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宮沢りえも若かった!!

 1988年に鮮烈な女優デビューを飾った宮沢りえ。そのデビュー作品となったのが、『ぼくらの七日間戦争』だった。この作品で、新人とは思えない存在感を発揮した宮沢は、この年の日本アカデミー賞新人賞を受賞。スターの道をかけあがる。今回はその作品を紹介したいと思う。

 映画の大枠は「子供たちの反乱」という形になっている。同作の原作である宗田理の同名小説の発行は1985年。当時は「管理教育」「校内暴力」「不良」「体罰」などなど、学校教育の問題がクローズアップされていた時代だった。という訳で本作でも、「大人たちはわかってくれない」という鬱屈感が作品の全般にあり、それに反抗する子供たちの痛快さを楽しむ作品になっている。

 原作を読んだ人は知っていると思うが、同作の原作は、基本としては中学生の冒険小説のような作りになっているが、所々に70年代の学生運動を暗に匂わせる文章がある。そういった経緯もあってか、この映画でも、反抗した子供たちが廃工場に立てこもり、バリケードや罠で教師を撃退。最終的には警察の機動隊まで来て戦うので、ゲバ棒と放水車がないだけで、引きの構図は学生運動の記録映像のような感じになっている。しかし、映画には「全共闘」とか「学生運動」「安田講堂」などの言葉は出てこず、映画向けに程よく見やすいようになっている。原作が子供たちにとっての「学生運動」ならば、映画は子供たちにとっての「忠臣蔵」といった感じだ。

 「忠臣蔵」とはいっても、主君のために仇を討つとか、そういう面でのことではない。忠臣蔵の元となった、元禄赤穂事件が発生した時代は、徳川綱吉の治世の時代で、悪法で不満もあったが、生活はそれなりに安定していた時代でもあった。その、多少不満はあるが天下泰平の世の中で、「自分はやりたくないけど、誰かがかわりに痛快なことをやって欲しい」という欲求を満たす作りになっているという点に対してのことだ。この作品が放映された時代もバブル景気で物質的には豊かだったが、不満がない訳ではなかった。特に当時の子供は学校で色々不満がたまっていたことだろうと思う。それらの不満のはけ口を代行してくれるような作りに、この作品はなっている。

 例えば、忠臣蔵では見る側に罪悪感を与えないように、討たれる吉良上野介が、徹底的に悪役に描かれるが、この作品ではその役割を中学校の教師たちが担っている。とにかく、「さすがにこんな教師いないだろ」と思うほどのクズ教師ばかりだ。演じている俳優陣は、金田龍之介、佐野史郎、笹野高史、大地康雄、倉田保昭など。特に佐野は、今でも映画やドラマでクズキャラ、ゲスキャラの演技が印象的な俳優として知られるが、他の俳優も、とにかくステレオタイプのクズ教師になりきっている。その演技の完璧さは、小中学校教師に対し、トラウマが少なからずある人なら、その時の様子を思い出してしまうほどかと思う。これで子供たちが立てこもった際に、少しでも心配する教師ならばいいのだが、口を開けば内申書や受験の話をし、生徒を脅すなど、とにかく救いようがないクズ連中なのだ。

 こんなクズ教師どもが中学生の返り討ちに合うのだから、同世代の子供はもちろん、学生時代に教師にトラウマがある人にとっても、とても痛快な描写に映る。それこそ、元禄期の江戸庶民が熱狂した忠臣蔵のように。しかし、一点だけ不満が、この作品には赤穂浪士にはあった「切腹」が決定的に欠けている。

 これは大人しか感じないことなのかもしれないが、当事者の気持ちはともかく、悪いことはしたのだから、とりあえずなにか報いは受けて欲しい。映画では、籠城した子供たちが教師を倒し、さらに警察の機動隊まで倒して秘密基地を守りぬき、最終的に花火を打ち上げて終了という形になっている。原作では秘密基地がブルドーザーに蹂躙されるシーンがあるので、せめて機動隊に捕まりながら打ち上げ花火を見るとかにして欲しかった。そうすれば、保護者が花火を見て「さすがだな」と呟くシーンももっと印象的なシーンになる気もするのだが…。

 一応終盤に、体育教師役の倉田保昭が、「お前らいい加減にしろ」と、それまでの頭ごなしに怒鳴るシーンとは明らかに違うトーンで叱るシーンがあるにはる。しかし、子供たちはなにも感じていなかったようで、ラストカットで、「これはほんの小手調べさ!」などと話し、最後に菊地英治役の菊池健一郎が、「うーん狙うは…、国会議事堂だ!」といい放ちエンドロールとなる。「え、君たちまだやんの!?」とさすがに困惑して、それまでの痛快さが一気に冷めてしまう感じがしてしまう。しかも、「国会議事堂」という言葉が、「60年安保闘争」を連想させて、ここまであえて外してきた、原作の学生運動的な面を一気に表へ出してしまうことも気になる。

 とはいっても。子供はもちろん、大人も楽しむことが出来る娯楽映画にはなっていると思う。あと、この作品には、『戦国自衛隊』(1979年放映)の劇中で使われた、レプリカの61式戦車が登場していている。同作の劇中では中山ひとみ(宮沢りえ)がエレーナと命名して、花火の打ち上げ台となり、その前にも走行シーンなどもあって、ゲスト登場の割には、結構目立つシーンが多いので注目だ。

(斎藤雅道=毎週金曜日に掲載)

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