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世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第345回 国民を守るプロジェクト

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提供:週刊実話

 10月の台風19号は、全国各地で堤防を決壊させ、河川の氾濫、洪水を引き起こし、大きな被害を与えた。死者・行方不明者は100名近くに及び、7つの県で71河川、140カ所が決壊。全国で8万4400棟の住宅が、水につかる、あるいは全・半壊する被害を受けた。

 もっとも、東京圏(首都圏)の利根川や荒川では決壊が起きていない。理由は、「政府がおカネを使わない」緊縮財政が続く中、「選択と集中」ということで、首都圏を守る防災インフラには、防災投資が続けられてきたためだ。八ッ場ダム、渡良瀬遊水地、荒川第一調整池など、過去に投資された防災インフラが東京を守った。

 逆に言えば、「選択と集中」から漏れた地方は防災インフラが整備されず、100カ所以上の堤防が決壊し、多くの国民が被害を被ったのである。

 安倍政権は民主党政権期よりも治水予算を使っていない。左図では、補正予算を合わせた予算総額は、民主党政権期が「底」に見える。実は、民主党政権期に治水予算の内、2139億円が社会資本整備特別会計に移ったのだ。逆に、2014年には1655億円が一般会計の当初予算に組み入れられた。

 要するに、民主党政権は「公共事業を減らしている」と見せかけ、安倍政権は「公共事業を増やしている」と装いたかったのだろう。民主党政権だろうが、安倍政権だろうが、治水関係予算(治水だけではないが)を増やしていないことに変わりはない。

 日本の治水関係予算(当初+補正)は、ピークの1998年(2兆680億円)から、直近では1兆412億円と、約半減している。国民を見捨てる気としか思えない。

 治水予算削減は国民を見殺しにしているわけだが、日本政府は全体の治水予算を減らす中、「選択と集中」により東京圏の予算は増やしている。その防災インフラが充実した東京圏ですら、先日の台風19号は「ギリギリ」だった。

 特に問題なのが、荒川である。東京圏で台風により発生する水害は、洪水と高潮の2つ。具体的には「荒川堤防の決壊」による洪水、もしくは「東京湾からの高潮」だ。

 ひとたび水害が発生すると、東京23区の約3分の1もの面積が浸水すると想定されている。東京都建設局の発表によると、高潮が起きた場合、浸水区域内の人口(昼間)は約395万人に達する。想像を絶する人々が、被災者になる(天王洲運河の畔に住んでいる筆者も、間違いなく被災者だ)。

 台風19号では、「たまたま」豪雨と満潮のタイミングがずれた。結果的に、高潮被害は免れた。また、荒川第一調整池(彩湖)など、過去の防災インフラが水を引き受けたため、荒川も決壊することはなかった。万が一(と言うほど低い確率ではないが)、荒川堤防が決壊し、満潮と重なった場合、資産に関する被害総額だけで100兆円(!)に達する(土木学会『「国難」をもたらす 巨大災害対策についての 技術検討報告書』より。以下同)。

 さらには、首都圏の交通網、通信網も麻痺。地下鉄網は完全に水没し、東京駅までもが水に沈む。日本経済(※GDP)が被る損害は、荒川洪水と東京湾高潮を合わせて72兆円(14カ月累計)。年間の経済成長率は、マイナス14%超という凄まじい状況に至る。

 お気づきだろうが、日本では毎年の降水量が増大している。1時間の降水量50ミリ以上の短時間強雨の年間発生回数を調べると、2009〜2018年の10年間の発生回数は、1976〜1985年に比べて、約1.4倍となっている。

 つまりは、これまでの「想定」では間に合わないのだ。

 日本の河川は、荒川が典型だが、脊梁山脈から河口まで一気に流れ下ってくる。日本の川は「滝」なのだ。

 しかも、これまた荒川そのものだが、川の上流から河口までの距離が極めて短い。台風が来ると、上流から下流まで一気に豪雨域に入ってしまう。

 というわけで、日本国民、さらにはメディアや野党は、「政府の無策・無能・怠慢」を批判し、PB黒字化目標を破棄させるか、せめて「建設国債はPB目標の対象外とする」ことを閣議決定させ、治水対策を拡充しなければならないのだ。

 間違っても、「社会保障費を削ってでも、防災投資を増やせ!」「防衛費を増やすくらいなら、防災投資を増やせ!」といった、トレードオフの発想になってはならない。これでは「選択と集中」をしている安倍政権と同じである。

 予算はあくまで「追加的に」かつ「長期的に」確保されなければならない。長期的に予算が増える、つまりは需要拡大が見込めて初めて、土木・建設企業は本気で投資を拡大し、散々に落ち込んだ供給能力の回復が始まることになる。

 今の日本に必要なのは、治水や震災対策、無電柱化などの「国民を守るプロジェクト」に、長期的に、継続的に、予算をコミットメントすることだ。そうすることで初めて、長年の緊縮財政により、痛めつけられた土木・建設の供給能力が、再び蓄積されることになる。つまりは、必要なのは補正予算ではなく「複数年度予算」なのだ。

 複数年度予算は、財務省にとっては「敵」である。ようやく2018年度に国土強靭化の3年度予算が組まれた(防災・減災、国土強靱化のための3カ年緊急対策)が、これは財務省にとっては「許されざる暴挙」、あるいは「あり得ない敗北」だ。

 もっとも、国土強靭化3年度予算にしても、土木・建設業側からしてみれば、
「3年間は予算があるのかもしれないが、所詮3年だ。その後、予算がなくなるならば、投資はできない」

 と受け止められてしまい、本格的な供給能力の回復はない。

 10年、あるいは20年の「国民を守るプロジェクト」について、建設国債発行と継続的予算拡大を国会で議決するのである。そのためにも、まずは建設国債についてPB黒字化目標から外すことを閣議決定する。それが「国民を守る」ための第一歩になる。

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みつはし たかあき(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、分かりやすい経済評論が人気を集めている。

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