'99年に共同経営者として同社を立ち上げたマー氏(54)は、「これからは教育分野の慈善事業に専念する」と言い放ち、9月10日に突然引退を発表した。
アリババは、ネット通販にとどまらず、スマートフォン決済や配車サービスなどを多角的に展開。一大企業集団として、中国では絶対的な存在となり、世界への進出も推し進めていた。
日本においては、「フーマ(盒馬鮮生)」と呼ばれる無人レジ・スーパーのノウハウを活かし、米国のウォルマート傘下にある西友の買収候補にも浮上している。
世界的なカリスマ経営者となったマー氏が、なぜ自分が作り上げた巨大企業を捨てるのか。
「大躍進を続けているように見えるアリババグループですが、それぞれの事業にライバル会社が台頭。中国全体の景気低迷も重なり、赤字を垂れ流すグループ会社も出てきた。株価も下落傾向なので、マー氏は自身のカリスマ性を維持するために、早いタイミングで離脱しようと考えたのでしょう」(経済ジャーナリスト)
同氏は、最近の中国政府の方向性に嫌気がさした可能性もあるという。
「もともとマー氏は、習近平国家主席に対して面従腹背。中国が米国から“敵国認定”を受けたような状態になったため、表向きは米国での100万人の雇用創出を白紙撤回するなど、習政権を擁護していますが、本心では中国を見限ったのかもしれません」(同)
米国との貿易戦争のみならず、「一帯一路」構想の頓挫、ヨーロッパをはじめとした先進国からの中国政府と企業に対する不振の高まりなど、世界中で“中国離れ”の兆しが見え始めている。ネットを支配しているだけに、「中国政府の市民監視を手助けしている」とも噂されるマー氏まで自国を見限ったとなると、中国は世界的に孤立するかも知れない。
マー氏のアリババは国有企業を差し置いて、中国有数の企業に成長したことで、マー氏と習氏の関係が微妙になっているとも伝えられている。今回の唐突なマー氏の「引退宣言」は、共産党一党独裁体制下の中国という特殊なビジネス環境が大きな原因となったことは間違いない。中国では政治家のコネがないと成長できないのは周知の事実であり、中国の企業家は常に危険と隣り合わせているといっても過言ではないのだ。