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がん新薬開発で巻き返す「武田薬品」自社ビル売却の吉凶

 武田薬品工業(本社=大阪市)が12月1日、東京都中央区にある東京本社が入る自社ビルと土地を、高島屋に売却することを発表した。譲渡額は495億円。この動きは、660億円を投じて間もなく完成する新東京本社ビル(同区)への移転に伴うものだが、狙いはそれだけではないという。
 「資金を確保し、新薬開発資金、M&A資金に振り向けたいというのが実際のところ。世界の薬品業界は今、M&Aの嵐が吹き荒れると同時に、潤沢な資金で新薬開発を進めなければ淘汰されてしまう状況。日本ではトップの武田もその荒波にさらされており、それが余剰資産の売却に向かわせているのです」(薬品業界関係者)

 武田薬品の場合、同業他社よりも、その動きを急ピッチで進めなければならない事情がある。
 「2010年から'11年には約3000億円〜4000億円以上あった営業利益が、'13年頃から1000億円台になり厳しい経営状態にある。そうした中、社内の一部では不満が募り、'14年の株主総会では、創業者一族の一部と株主OBらが、当時社長だった長谷川閑史氏に事前質問状を送り付けるなど、大混乱したのです」(同)
 内容は後任社長に米大手製薬会社グラクソ・スミスクライン出身のクリストフ・ウェバー現社長を選んだ理由と疑問、つまり外資に乗っ取られるのでは、という危惧での“反乱”だった。

 当時の執行部はこれに対し、「グローバル化に必要な人材がウェバー氏であり、外国人社長と乗っ取りが同一に語られる理由が分からない」と反論、強気の姿勢で臨んできた。以来、武田薬品は一貫して日本のトップ製薬会社から世界のトップ10位以内に入ろうと、あがき続けているのだ。
 「その延長線上に今回の売却話があるわけですが、資金捻出という意味では、今年4月にも品川区の賃貸用オフィスビルを約320億円で売却している。しかし、その2カ月前、がん治療薬の開発を手がける米アリアド・ファーマシューティカルズ社を約6200億円で買収しており、スクラップアンドビルドしながら攻めの経営を押し進めるというのが、武田の姿勢なのです。ただし一方で、業界内では“武田の焦りに勝算はあるのか”との声も聞こえてきます」(業界紙記者)

 年商1000億円を超える薬を、「ブロックバスター」という。武田薬品は、かつて、そのブロックバスター商品である世界的特許薬を、4つも抱える超優良企業だった。糖尿病薬『アクトス』、高血圧薬『ブロプレス』、前立腺がんなどの抗がん剤『リューブリン』、消化性潰瘍薬『タケプロン』だ。
 「しかし『タケプロン』が'09年、『アクトス』が'11年、『ブロプレス』が'12年と次々に特許切れとなり、『アクトス』はアメリカで発がんリスクがあるという評決が下された。この4特許製品で6割を占めていたことから売り上げは激減し、そんな事態にもかかわらず次期有力商品を開発できなかったのです。焦る経営陣は海外企業を買収して有力商品を乗っ取る計画に出たが、マネジメントと開発も失敗続きと揶揄され、結局、M&Aに数兆円を費やしただけに終わってしまった。この負のスパイラルから、いまだに抜けきれていないのでは、との指摘があるのです」(医療系大学教授)

 もっとも、武田薬品の苦悩は、国内の製薬会社に共通する部分もある。
 「国内製薬会社の多くは、新薬の研究・開発で、患者数が多く市場性もある高血圧、糖尿病などの生活習慣病に重点が置かれてきた。ところが、この領域ではほぼ新薬が出尽くしているのが現状。そこで今度は、がんの治療薬にシフトし始めているのですが、こちらは販売までもっていくのが難しい。研究を始めた新薬候補が実際に発売される成功率は、3万分の1とも言われるほどなのです」(同)

 その成功例として象徴的なのが、小野薬品工業が20年かけて開発した、抗がん剤の『オプジーボ』('14年販売開始)で、これにより同社は'16年度の売り上げを対前年比48.2%増の、2413億円にまで押し上げた。
 「しかし、これは奇跡に近い開発。新薬創出の困難さが増している今、製薬会社各社は生き残るためにあらゆる手を尽くして開発費を生み出し、M&Aを積み重ねていくしかない。ちなみに、世界トップの米ファイザーにしても、2位のスイスのロシュにしても、売上高5兆円企業とはいえ、研究開発費の方も1兆円近くで、3000億円程度の武田とはかなりの開きがある。どこまでも攻めの姿勢で行かなければ、サバイバル合戦にも参加できない状況なのです」(前出・記者)

 武田薬品も今回の売却による資金を、がんの新薬開発を中心に注ぎ込むという。果たして“世界の武田”へ向け、巻き返しなるか。

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