工藤會 法廷闘争 検察と警察による暗黒裁判のシナリオ 寄稿・宮崎学

社会 週刊実話 2019年10月21日 22時03分

工藤會 法廷闘争 検察と警察による暗黒裁判のシナリオ 寄稿・宮崎学提供:週刊実話

 我が国で唯一、「特定危険指定暴力団」に指定されている五代目工藤會(福岡)の野村悟総裁と田上文雄会長の公判が、いよいよ10月23日に始まることとなった。逮捕から、実に5年もの時を経ての開廷である。

“平成の頂上作戦のクライマックス”ともいわれた野村総裁の逮捕劇は、平成26年9月11日に起きた。
「工藤會潰しの記念日として覚えやすくするために、(平成13年の)アメリカ同時多発テロ事件の『9・11』に合わせたのさ」

 ある捜査関係者は、こううそぶいたというが、冗談半分、本気半分といったところだろう。実際、当時は記者たちの間でも「工藤會の9・11」で通用していたのだから。その後も野村総裁は再逮捕を繰り返されることになるが、「9・11」の逮捕は元漁協組合長射殺事件(平成10年2月)を指示したとする殺人と銃刀法違反の容疑であった。

 平成26年9月11日は、早朝から野村総裁の自宅周辺に福岡県警の捜査員らに加えて、全国の警察から約300人の機動隊員が派遣された。上空にはヘリコプターが飛び交い、大勢の工藤會の関係者が見守る中での逮捕となった。報道によると、自宅から出てきた野村総裁が県警のワゴン車に乗ったところで、逮捕状が執行されている。野村総裁が被っていた帽子を関係者に預けると、車は静かに発進し、関係者らは一斉に頭を深く下げて車を見送った。まるで往年のヤクザ映画である。

 野村総裁の逮捕を受けて福岡県知事は記者団に対し、「大きな前進」とコメントしたが、工藤會側はすぐに「不当逮捕。断固として闘う」と表明。そして、この2日後に田上会長も逮捕された。約1カ月後の10月1日には女性看護師が刺傷された事件(平成25年1月)、翌27年5月には歯科医師が刺傷された事件(同26年5月)、6月には所得税法違反容疑、7月には福岡県警の元警部が銃撃された事件(同24年4月)で逮捕、のちに起訴された。

 平成27年6月の逮捕容疑は、「上納金の脱税」という前代未聞のものであった。野村総裁は平成22年〜25年の4年間で、「会の運営費」として集めた会費のうち個人所得にあたる約2億3000万円を申告せず、所得税約8800万円を免れたとされた。金額はその後に上積みされ、約8億900万円を申告せず約3億2000万円の脱税となった。本来の「暴力団」は法人ではなく、法的には町内会などと同じ任意団体であり、基本的には非課税とされる。そこで警察当局は、会費として集められた金を代表者に流れた「個人所得」として、野村総裁に脱税の容疑をかけたのである。

 この逮捕は当局の“ウルトラC”として話題になったが、平成30年7月の一審では懲役3年、罰金8000万円の有罪判決が言い渡された(現在、控訴中)。今月から始まる公判では、元漁協組合長射殺、福岡県警の元警部銃撃、看護師襲撃、歯科医師襲撃の4事件が、田上会長と共に審理される。元漁業組合長射殺事件は殺人罪、他の3件は組織犯罪処罰法違反の罪である。

 起訴状などによると、野村総裁は元漁協組合長射殺に関与し、他の3事件については配下の組員に犯行を指示したとされている。野村総裁は取り調べに対して否認を貫いたが、当局にとっては想定内のことであり、“外堀”を埋める作業を進めてきた。検察と警察は野村総裁と田上会長の身柄を確保した上で、事件に関わった傘下組織の者たちの捜査と裁判を先行させたのだ。

 組員たちの裁判を通じて既成事実を積み上げていき、トップを落とす。工藤會に限らずヤクザに対して過去に何度も行われてきた手法である。このことで、弁護団は公判に先立ち裁判長、裁判官ら3名について忌避(※事件の職務執行からの排除を求める申し立て)を行ったが、却下された。

 弁護団のA弁護士は、こう説明する。
「元漁業組合長の事件以外の3件は、先に行われている組員の裁判で、野村総裁の指揮命令下で行われたと認定され、刑が確定しています。今回の公判も、その裁判官が担当することになっているのです。最初から予断をもって審理されるのは明らかで、刑事訴訟法第21条で定める忌避理由である『不公平な裁判をする虞れ』があります。さらには、最も尊重されなければならない憲法37条1項の『公平な裁判所の裁判を受ける権利』も保障されません」

 野村総裁と弁護団が、相当な苦戦を強いられるのは明らかである。

 また、今回の裁判には他にも問題点がある。例えば、元漁業組合長への射殺事件。今から21年前に発生し、すでに実行犯らの判決は確定している。そのため、同一の被疑事実による再度の逮捕、勾留が行われることは、「逮捕・勾留の一回性の原則」にも反しているのだ。
「日頃から何かあるたびに、『また工藤會の仕業か』と騒ぐわりには、ずいぶん古いものを持ち出してきたなという印象です。わざわざ出してくるということは、検察は自信があるのでしょう。弁護団も緊張感を持って裁判に臨みます」(同)

 そもそも、今回の起訴では「新証拠」が提出されているが、それ自体は当時の公判記録に書かれていたものだった。すなわち、「当時からあったものに気が付いた」ということになり、疑念を抱かざるを得ない。

 野村総裁と田上会長が裁かれる事件は“一般市民が被害者”となった事件であり、他にも企業や飲食店を狙った凶悪事件などが地元・福岡で頻発していたことから、「工藤會=一般市民を襲うテロ集団」という認識が全国に広まった。

 しかし、元漁協組合長射殺に関して言えば、被害者のX氏は、北九州の若松区では知らぬ者がいないほど有名な元大物ヤクザだった。しかも、X氏が現役組長だった昭和25年、自身が率いるX組の組員が、のちに工藤會二代目となる草野高明総長の実弟を殺害する事件も起こしていたのだ。

★魔女裁判と同じ不条理さ

 昭和38年には、独立団体だったX組が三代目山口組傘下に入り、近隣の複数の独立団体も雪崩を打ったように加入。山口組の北九州侵攻に反発する地元組織と対立が深まった。興行を巡る争いから、X組が工藤組(現在の工藤會)関係者を銃撃。報復に燃えた工藤組組員らが、別の山口組系組員を惨殺し、地元の紫川という川に遺体を投げ込む事件も発生した。これは「紫川事件」と呼ばれ、山口組に対して一歩も引かない工藤組の強い姿勢を見せつけたのだった。

 X氏が現役ヤクザだった頃のこうした古い因縁を乗り越え、その後、X氏と工藤會には付き合いがあったようだ。ところが、工藤會が溝下秀男三代目体制になると、X氏側が工藤會との関係を完全に断ち切ろうとし、そのやり方が工藤會の逆鱗に触れたともいわれた。当時、こうした背景はほとんど報じられなかった。当局が「ヤクザVS一般市民」という方向に世論を誘導したいがためであり、司法の中立性や信頼性が揺らぐような判断が、平気でまかり通っているのだ。

「ヤクザは悪くないとは言いませんが、『ヤクザだから冤罪でもいい』という風潮には反対ですね。中世の魔女裁判と変わりません。これまで指定暴力団のトップに死刑が求刑されたことはありませんでしたから、検察や警察は史上初の死刑求刑を狙いたいのだと思います」(前出・A弁護士)

 米財務省から「ヤクザの中でも最も凶暴な団体」とされた工藤會のトップに死刑を求刑し、国際的な注目を集めたいという司法の思惑も見え隠れするのだ。

 一方、逮捕以来、野村総裁ら工藤會幹部は接見禁止処分を受け、弁護人の面会しか許されていない。初公判が始まれば接見禁止が解かれることも多いが、最近のヤクザの裁判では判決が出るまで接見禁止とする裁判所も多い。

「裁判が終わるまで家族とは会わせないよ。弁護士以外の顔は見させないから」

 こう軽い調子で検察官から言われ、野村総裁は「ああ」とだけ答えたという。もとより接禁は織り込み済みなのであろうが、それにしてもすでに5年が経過した。長年の拘禁状態は健康被害を起こすことが指摘されているが、A弁護士によると野村総裁の体調は良く、弁護人と刑務官以外は誰とも話さない「非日常的な日常」を過ごしているそうだ。

 毎日、午前7時20分の起床から始まり、8時に朝食、正午に昼食、午後4時に夕食、消灯は9時。その間に弁護士との打ち合わせや入浴、運動の時間が入る。

 また、未決囚なので自費で弁当などを購入し、差し入れも受け取ることができる。野村総裁は拘置所の麦飯を「まずくはない」と言い、「1日15分くらいしか運動できない」ことを理由に、毎日1本の野菜ジュースだけを差し入れてもらっているという。さらに「年の数だけ」スクワット運動をし、多くの時間は読書に費やしているそうだ。

 そんな野村総裁は10月23日、再び法廷に立ち、新たな闘いに臨む――。

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寄稿:宮崎学
1945年、京都市生まれ。父親は京都市伏見区に本拠を置く寺村組初代組長で、’65年、早稲田大学に入学。『週刊現代』の記者を経て、作家、ジャーナリストに。近著に『山口組と日本』(祥伝社新書)などがある。

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