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森永卓郎の「経済“千夜一夜”物語」 高齢者はなぜ見捨てられるのか

 総選挙で与党が掲げた、教育無償化の具体的な制度設計が始まった。現段階の報道では、幼児教育は2020年度から認可外保育所を含めた無償化、大学等の高等教育については、所得税の非課税世帯の無償化が実現する見通しだ。
 国際的に見ても、日本の家庭の教育費負担は重く、それを軽減することには私も賛成だ。ただ、見すごせないのは、子育て世代の負担を減らそうという一方で、高齢者がどんどん切り捨てられてしまっているという現実だ。

 「保育園落ちた、日本死ね」と題した匿名のブログで、待機児童解消は国民的な関心事となり、与野党がともに掲げる大きな政策目標となった。
 厚生労働省の発表によると、今年4月の待機児童の数は、2万6081人と、前年より2528人増えた。確かに大きな問題だが、厚生労働省の調査によると、特別養護老人ホームの待機者数は、昨年4月時点で36万6000人だった。待機児童数の実に14倍もの待機高齢者がいるのだ。政府は、待機児童とともに待機高齢者をゼロにする目標を掲げているのだが、こちらは一向に目途がたっていない。

 もちろん、待機高齢者の数は、2年半前の調査のときと比べて、16万人近く減少している。しかし、そこにはカラクリがある。
 政府は'15年4月から、特別養護老人ホームの入居要件を厳格化し、認知症や家族による虐待などといった在宅生活が難しい場合を除いて、要介護1から2の高齢者は、入居させないようにしたのだ。
 要介護2というのは、排せつや入浴などに部分的な介護が必要な状態であると同時に、歩行や起き上がりなどにも部分的な介護が必要な状態を言う。それだけ厳しい症状でも、特別養護老人ホームには入居できない。

 '15年度に行われた介護保険制度の改悪は、それ以外にもまだある。介護サービスの際に本人が負担する金額を、高所得者については1割から2割に引き上げたのだ。高所得者といっても、単身世帯で年収が280万円以上と、けっして高い水準ではない。
 さらに、要支援者は、地域支援事業となって、介護保険の適用から外された。要支援者に対するデイサービス等の事業は、自治体に財源が委ねられることになって、地域間で格差ができることになった。さらに、来年の制度改正では、一部の高所得者の自己負担割合を3割に引き上げ、介護サービス費用の月額自己負担限度額も、3万7200円から4万4400円に引き上げられる。

 なぜ高齢者ばかりが、こんなイジメに遭わないといけないのか。恐らく、一億総活躍社会という名の富国強兵策のなかで、人口増に結び付いたり、女性の労働市場進出を促進する子育て支援は重要だが、兵力にも労働力にもならない高齢者は、どうなっても構わないという判断が政府の思想のなかにあるのではないだろうか。
 日本の高齢者はお人好しで、選挙で圧倒的な票数を持つにもかかわらず、自らの権利を主張しないのが実情。そろそろ日本の高齢者は、「老人党」でも結成して、政治活動を始めた方がよいかもしれない。そうしないと、老後が暗くなるばかりだ。

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