復讐の光も直視『相棒』正月特番・聖戦

トレンド 2011年01月15日 12時00分

 テレビドラマ『相棒』の元日スペシャル「聖戦」が、1日1日に放送された。

 『相棒』はテレビ朝日の人気刑事ドラマシリーズである。「聖戦」は復讐の光の面にも着目した考えさせられるドラマであった。

 物語は消費者金融営業の折原忠志(天野浩成)が自宅に仕掛けられた爆弾で殺害されたところから始まる。杉下右京(水谷豊)と神戸尊(及川光博)は12年前に折原のバイク事故で息子を失った富田寿子(南果歩)を犯人と確信する。しかし、犯行を裏付ける証拠が見つからず、捜査は難航した。

 刑事物や推理物では殺人犯の動機を復讐とすることは定番である。たとえば漫画『金田一少年の事件簿』や『名探偵コナン』では名探偵が真犯人を暴いた後に観念した真犯人が殺した相手の過去の悪事を語る展開が続く。これによって真犯人側にも理由があったことを示し、単純な勧善懲悪物とは異なる物語の深みを出している。

 「聖戦」も、その例に漏れない。世の中には快楽や、つまらない理由から犯罪に走る例も少なくない。しかし、右京の「ゲーム」という言葉に対する以下の台詞が、寿子の覚悟を示している。

 「バカにしないで欲しいわ、ゲームだなんて。私は、ゲームなんてしているつもりはないの。これはね、戦争よ。聖なる戦い」

 最愛の息子を殺されただけでも十分に同情に値するが、「聖戦」の特徴は息子の思い出や息子を失った後の被害者の苦しみを丁寧に描いていることである。たとえば不登校で引きこもりだった息子が母親を安心させるため、好きな機械いじりを生かして工場に就職したシーンなどである。これらの描写で視聴者は寿子に深く感情移入できる。

 復讐するだけの十分な理由があったとしても、刑事物や推理物では復讐を悪と位置づけなければ物語は成り立たない。主人公の刑事や探偵は真犯人の行為を悪であると断罪する立場にある。『相棒』でも右京は何度も復讐の愚を説いている。それは正論であるとしても、虐げられた者の苦しみを知らない優等生的な奇麗事にも聞こえる。

 右京を好意的に解釈できる面があるとすれば、彼自身が当時の上司の小野田公顕の失態を押し付けられたにも関わらず、それを恨んでいるようには見えないことである。この点で右京には他者の復讐を批判する資格はあるが、それでも真犯人の背負う苦しみに比べれば軽い。また、窓際部署・特命係で飼い殺しされる状態に問題意識を持たない右京の態度は警察の隠蔽体質に結果的に加担することに等しい。

 実際問題として復讐には積極的な面がある。「聖戦」では抜け殻のような人生を送っていた寿子が復讐を計画してから、明るくなり、生き生きとした。仕事ぶりも変わり、職場に不可欠な人と評価され、ファッション雑誌の読者モデルにもなった。復讐心が生きる喜びを与えるという人間の現実をドラマは直視する。

 そして最後に寿子を翻意させたものも、杉下や神戸の説得ではなかった。折原の妻の夏実(白石美帆)の身を挺した行動であった。それは憎しみの連鎖を断ち切るという夏実なりの復讐であった。復讐する理由がある真犯人に対し、愛する夫を殺害された妻を対置させる。これによって警察官が建前論で犯人を断罪する白々しさを避けることができる。神戸が最後に述懐したように警察は傍観者に過ぎないという異色のストーリーになった。
(林田力)

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