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世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第12回 「人口減少デフレ論」のウソ

 本連載ではこれまで、
 「国の借金といわれるものは『政府の負債』であり、国民の借金ではない」
 「日本政府の負債は100%自国通貨建てである」
 「日本政府の自国通貨建て負債(国債)は日本銀行が買い取れば返済、利払いの必要がない」
 「日本銀行が国債を買い取っても、供給能力が過剰な日本はハイパーインフレーション(インフレ率1万3000%)などにはならない」
 「先進主要国が公共投資を増やし続ける中、日本のみが減らしていっている」
 「現在の日本は公共投資を増やさなければ、国民の生命や安全が守られない」
 など、日本社会に蔓延する常識を「データに基づき」ひっくり返す作業を続けてきた。「国の借金で破綻する」「日銀が国債を買うとハイパーインフレになる」「日本の公共投資は多すぎる」など、過去にマスコミが撒き散らしたデマゴギーが日本経済に与えたネガティブな影響ははかり知れない。

 何しろ、我が国は1997年の橋本政権による緊縮財政(これ自体が財務省の「ウソ」から始まったのだが)開始以降、デフレが深刻化し、名目GDPが全く増えない状況に陥ってしまったのだ。
 名目GDPは、国民の所得の合計をも意味する。日本国民の所得は、何と15年間も成長しない異常事態が続いている。

 我が国の国民所得が伸びなくなったのは、単にデフレの深刻化が原因であり、別に日本国民が怠けていたためではない。
 デフレで「価格」が下がり続ける国が、名目GDPを堅調に拡大させるのは不可能に近い。何しろ、名目GDPは「価格」で表現されるのである。
 我が国が国民の所得を増やすためには、とりもなおさずデフレ脱却が必要なのだ。ところが、我が国が正しいデフレ対策を打とうとするたびに、マスコミや日銀、財務省などがデマゴギーを撒き散らし、政府のデフレ対策を妨害しようとしてくる。

 最も悪質なデマゴギーといえるのが、いわゆる「人口減少デフレ論」だ。
 「日本は生産年齢人口が減少し、需要が縮小しているから物価が継続的に下落している」
 などと言われると、「なるほど」と思ってしまう人が少なくないだろう。とはいえ、人口減少デフレ論は完璧なウソである。
 生産年齢人口が減少しているのが本当に問題なら、その国は「供給能力の不足」に見舞われる。供給能力が不足した国がいかなる問題に直面するかといえば、もちろんインフレだ。需要に対し、供給能力が足りないわけだから、物価は下落ではなく「上昇」するのだ。

 そもそも世界には人口が減っている国が少なくない。
 人口が減っている国々(ほとんどが日本以上の減少率だ)の内、デフレに陥っているのは日本だけだ。
 なぜ、日本だけがデフレなのか。もちろん、'90年にバブルが崩壊し、その後、マスコミや財務省、日銀の情報操作により、政府がまともなデフレ対策を打てなくなったためである。
 逆に、他の人口減少国は、バブル崩壊を経験していないから、デフレ化していない。ただ、それだけの話だ。

 さらにいえば、人口減少デフレ論は日本政府の内閣府が明確に否定している。2011年7月29日に発行された「平成23年版 経済財政白書〜日本経済の本質的な力を高める〜」において、内閣府は「人口減少デフレ論」について、
 「生産人口の減少と物価下落が併存しているのは日本だけ」
 と結論付けているのである。

 結局のところ、藻谷浩介氏の「デフレの正体」に代表される人口減少デフレ論は、単に日本銀行の責任逃れのために活用されているだけなのだ。
 人口の減少は別に日銀の責任ではない。そして、デフレが人口減少のためとなると、日銀にはデフレ深刻化の責任が全くないという話になってしまう。

 ちなみに、'05年前後の香港は現在の日本以上にデフレだった。内閣府は、当時の香港のデフレについて「2000〜2005年においては、香港でも物価下落が生じているが、生産年齢人口はプラスとなっており、生産年齢人口の減少が物価下落の必要条件ということもいえない。当時の香港では、不動産バブルの崩壊が生じており、資産価格の下落とともに一般物価も下落した」と白書に書いている。
 政府が白書で明確に否定した人口減少デフレ論を、いまだに主張し続ける人がいるわけだから、何らかの意図を持っていると疑われても仕方があるまい。

三橋貴明(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、わかりやすい経済評論が人気を集めている。

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