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森永卓郎の「経済“千夜一夜”物語」 シリア攻撃は誰のためか

 トランプ大統領は、4月6日、米中首脳会談のさなかに、地中海に展開していた軍艦からシリアのシャイラト空軍基地に向けて、59発の巡航ミサイルを発射した。4日にシリア政府軍が、反政府軍が支配するシリア北西部で空爆を行った際に化学兵器を使ったとみられることが、トランプ大統領に攻撃を決断させた。

 このニュースを聞いて、私が真っ先に思い浮かべたのは、2003年のイラク戦争だった。
 当時のブッシュ大統領は、イラクが大量破壊兵器を保有しているという理由でイラク攻撃に踏み込み、地上軍を送り込んだ。国連では、ドイツやフランスが、「大量破壊兵器を本当に保有しているか、まず調べるべきだ」と主張したが、アメリカはそれを完全に無視して、戦争へと突き進んだのだ。
 ところが、実際にフセイン政権を倒してみると、イラクに大量破壊兵器は存在しなかった。

 今回は、シリア政府軍に空爆された地区の住民の映像が報道されているので、化学兵器が存在していたこと自体は間違いないだろう。しかし、反政府軍の化学兵器保管場所を政府軍が空爆したとか、国際社会に訴えるために、反政府軍が自作自演をした可能性も否定できない。
 現に、シリアのアサド大統領は「シリア政府軍は化学兵器を一切保有していないし、使ったこともない」と主張している。シリアは、化学兵器の保有を禁止する国際条約にも署名している。だから、まず取り組むべきは、化学兵器使用の真相究明なのだ。

 米国の攻撃を受けて、ロシアは緊急の安全保障会議を招集し、プーチン大統領は、「米国のシリア攻撃は、国際法に違反する侵略行為だ」とする声明を発表した。国連が武力行使を認めているのは、安保理の決議があった場合と、自衛権の行使の場合だけだ。やはり、米国の攻撃は国際法違反なのだ。
 ところが、安倍総理は、7日に「米国政府の決意を日本政府は支持する」と表明した。イラク戦争の際、当時の小泉総理は、米国の攻撃そのものを支持した。それと比べれば、トーンダウンしているが、“米国支持”という点では、まったく同じだ。

 問題は、今回のシリア攻撃が何をもたらすのかということだ。ロシアメディアは、空軍基地に着弾したミサイルは59発中23発にすぎないと報じた。誤爆に民間人が巻き込まれた、という現地報道もある。
 さらに、シリア政府軍と反政府軍の内戦が、ロシアと米国の代理戦争になって泥沼化したら、イスラム国が漁夫の利を得ることによりシリアの治安はますます悪化する。そのイスラム国自体が、米国がフセイン政権を倒して、イラク国内の治安が悪化したことで生まれたことを忘れてはならないだろう。
 さらに、今回のミサイル攻撃は、核開発を続ける北朝鮮への圧力となったという見方もあるが、それは真逆だ。むしろ「シリアは核を持っていないから米国にやられた」と判断して、核兵器開発を加速させることになるだろう。

 つまり、今回のシリア攻撃は何もメリットがないのだが、1人だけ得をする人がいる。それは、支持率を回復できるトランプ大統領なのだ。

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