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少子化問題に直面した高校野球の未来像

 第94回全国選手権大会(以下=夏の甲子園大会)は、8月23日に決勝戦を終えた。その大一番を前後して、“興味深いウワサ”がネット裏で広まっていた。
 「来春のセンバツ大会で『連合チーム』が選ばれるのではないか…」
 当事者に迷惑を掛けたくないので、「ウワサ」だということは強調しておきたい。だが、高校野球は転換期を迎えており、何かしらの制度変更も予想されているのだ。

 「秋季大会は覚悟しています。甲子園を経験させていただいた以上、仕方ないことですし」
 今夏の大会に勝ち上がった某高校の監督が語っていた。どういう意味かというと、夏の甲子園に勝ち上がった分、3年生の卒部に始まる『1、2年生中心の新チーム作り』が遅れてしまう。県代表の座を争ったライバル校は地区予選敗退と同時に『新チーム』での練習をスタートさせており、夏の甲子園を経験した「約1カ月分の遅れ」は秋季大会に影響する。また、来春のセンバツ大会だが、秋季大会以降の公式戦の成績が選考材料となる。したがって、出遅れた側の甲子園出場校も秋季大会を気にするのは当然で、史上7校目となる春夏連覇をおさめた大阪桐蔭、3季連続で甲子園の決勝戦に進出した光星学院には改めて敬意を表したい。
 そんな両校は野球部員数がともに60人を越えており(光星学院=67人、大阪桐蔭=66人)、県外出身者の多いチームとしても知られている。私見としては「将来の目標を持って、親元を離れた彼らの勇気」を応援しているが、今夏の地方予選前、興味深いデータも発表された。『少子化問題』である。
 今年の地方大会の参加校は、3985校(連合チームは『1校』で計算)。昨年より29校減ったことになる。前年までのデータを見直してみたところ、4000校を割ったのは23年ぶりで、2003年の4163校をピークに『9年連続の減少傾向』となっている。国勢調査に基づく政府関連資料によれば、高校生の人口自体、この10年間で約70万人も減ったという。

 高野連加盟校数は4071校(今年5月末時点)。少子化による高校生の人口低下を照らし合わせれば、『7年連続での減少』の事態も当然の結果だろう。しかし、野球部員数は16万8144人で、昨年よりも1219人増えている。また、『部員数100人以上の高校』は全国で68校もあり、2000年代前半と比べ、2倍近くも多くなっている。同様に、『部員数10人以下の高校』は118校。こちらも2000年代前半と比べ、2倍近くになっていた。
 野球部員は微増、少子化の影響で加盟校は減少。野球部員は競合・有名校に偏り、地方の無名校は人数不足に悩まされている−−。
 今夏は31の連合チームが参加した。部員数不足による11チームが新たに参加、学校の統廃合による19チーム、東日本大震災の影響による『相双福島』を加えて、31チームが地方大会を盛り上げた。『連合チーム』は学校の統廃合等に限って認められてきたが、高野連はこの制度を緩和した。「部員数不足で2大会以上を棄権した高校が全国で96校もあった」からである。

 また、東京都も『東西地区割り』の再編成を行う(来年2月承認)。現在、東東京・151校に対し、西東京は120校。この「31校」の格差を解消するためであり、こちらも多摩・八王子地区の公団住宅街の人口減少も影響してのことだろう。高野連はこうした少子化による社会的影響を受け、制度の変更(緩和)も避けられなくなった。球児のためになる規定緩和は大歓迎だが、野球はサインプレーのスポーツでもある。試合中のブロックサインは統一できるとしても、学校行事やスケジュールが異なるため、十分な練習時間を確保できていないという。「試合に出る」だけが目的ならばそれでいいかもしれないが、今夏の光星学院の健闘もあって、高校野球ファンの関心は東北勢に向けられている。東日本大震災でクローズアップされた連合チームもないわけではない。21世紀枠による連合チームのセンバツ出場説が噂されるのは、そのためである。

 「限られた練習時間」でどうやって野球レベルを高めるかは、各連合チームの課題だ。現行として、連合チームは「人数不足」(=少子化)に直面した学校の救済法にすぎない。しかし、『施設不足の解消』『行政支援』を目的とするスタイルも認められるとすれば、もっと強い連合チームが出現するだろう。
 越境入学者の多い高校が県代表に勝ち上がると、「地元出身者が少ないから応援しない」とこぼす大人も多い。個人的には、こうした学校が野球部員を地元ボランティアに参加させている姿も見ているので、こちらも応援していきたいと思っている。東京都の東西地区割りもそうだが、少子化の問題は高校野球の伝統も変えてしまうかもしれない。炎天下のスタンドで声を張り上げている応援団を見て、高校野球は『地元スポーツ』だということを再認識させられた。少子化問題と同時に、いかに地域に密着し、愛されるチームを作るかも検討しても良いのではないだろうか。(スポーツライター・美山和也)

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