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森永卓郎の「経済“千夜一夜”物語」 世界は強いリーダーを求めている

 ロシアのプーチン大統領が昨年12月17日に、恒例の年末記者会見をモスクワで開いた。この記者会見に集まったジャーナリストは1400人にも及び、大盛況だった。メディアがそれだけ注目するのは、もちろんプーチン大統領が、“強い指導者”だからだ。
 プーチン大統領は、誰の助言を受けることもなく、もちろん原稿を読むこともなく、3時間にわたってしゃべりまくった。すべて自分の頭で理解し、そして決定権を持っていることの何よりの証拠を見せた。
 プーチン大統領は、1バレル100ドルの石油価格を前提に予算を組んでいたのに、石油価格が半額以下に下落したことで、財政や経済が厳しい状況におかれていることを率直に認めた。そのうえで、今後の経済成長への自信を示すとともに、ロシア軍機の撃墜以来関係が悪化しているトルコ政府に対しては、徹底的に非難の言動を繰り返した。

 そして何より興味深かったのは、アメリカ大統領選挙の共和党指名候補争いで首位に立つドナルド・トランプ氏を「非常に卓越した、才能ある人物だ」と褒め讃えたことだ。
 アメリカの不動産王であるトランプ氏は、共和党の指名候補争いで、いずれは消えるキワモノとみられていた。
 何しろ彼の主張は、日系人強制収容を支持したり、警察官殺害犯を一律死刑にしろと主張したり、さらに最近ではイスラム教徒のアメリカへの入国禁止を提案したりといった極論に終始している。
 ところが、アメリカの世論調査では、トランプ氏の支持率が共和党支持者の42%を占め他の候補者を圧倒、完全に主役となる事態になっているのだ。

 実は、こうした強いリーダーを求める空気は、世界に広がっている。
 12月6日に行われたフランス地域圏議会選挙の第1回投票で、排外主義を標榜する極右政党・国民戦線が、13地域圏のうち6つで第1位を獲得した。結局、第2回投票では、どの地域においても1位を獲得できなかったが、それでも「最大政党」となっているのは事実だ。
 世論の「右傾化」は、日本も同じことが言える。時事通信が行った12月の世論調査によると、安倍内閣の支持率は前月比0.7ポイント増の41.2%で、3カ月連続で増加した。安保関連法案の強行で、一度は落ちた支持率が、再び上昇してきているのだ。

 世の中の閉塞感が強まれば強まるほど、世間が強いリーダーを求めるということは、歴史が証明している。
 もちろん、強いリーダーが国を率いれば、利害が対立する問題の国際間調整がトップ会談でできるようになるから、意思決定が迅速になるというメリットはある。
 しかし、逆に怖いのは、誰かひとりのリーダーが暴走をすると、あっという間に戦争に突入してしまうということだ。
 実際、トルコ軍によるロシア軍機の撃墜事件も、背後にはシリアの利権をめぐる米露対立があるから、もしプーチン大統領が冷静な判断を失うようなことがあれば、すぐに世界戦争になってしまう。
 今後、第3次世界大戦の火ぶたは、案外簡単に切られてしまうかもしれないのだ。

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