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【コンピューターゲームの20世紀 52】ゲームオーバー画面はプレイヤーのお葬式『たけしの挑戦状』

 テレビゲーム史上最悪のクソゲーと評されるアタリ2600の『E.T』。そのリリース年は1982年だから、クソゲーの歴史はかなり長い。「あまりにも売れなくて、アタリ社は埋め立て処分を行った」という都市伝説も誕生するほどのクソゲーだった。

 2014年、その真偽を確かめるべく、海外のドキュメンタリー番組を通じて『E.T』発掘作業が行われたのだが、結果、かつて我が国で毎週のように放送された徳川埋蔵金とは正反対に、この都市伝説は事実であることが判明する。アタリショック(北米のテレビゲーム市場崩壊)の間接的要因という称号に加え、またも新たな栄冠を手にした『E.T』。伝説的なクソゲーとして、未来永劫語り継がれることだろう。

 さて、同作品は海外製のゲームだが、国産ゲームにおいてもクソゲーは山ほど存在する。自分が子供だった頃をよく思い出してみてほしい。誕生日やクリスマスに買ってもらったゲームに、どれだけのクソゲーが混じっていたかを。当時はそう感じなくても、大人になった今冷静に考えると、「あれはクソゲーだったな」と思うゲームが次々と思い浮かぶのではないだろうか。

 ファミコンが大流行していた1980年代は、名作ゲームとの抱合せ販売も決して珍しいものではなかった。結果的にクソゲーを掴まされる機会も増えるわけだが、特に危険なのは芸能人とのタイアップである。その大半がクソゲーといっても過言ではなく、中でもゲーム開発のノウハウがない音楽メーカーから発売されたゲームに限定すると、そのヒット率は格段に上昇する。こういった、子供だましのゲームが80年代には氾濫していたのだ。

 しかしながら、今回紹介する『たけしの挑戦状』の発売元はタイトー。『スペースインベーダー』で日本中を席巻し、それ以外にも名だたる名作の数々を世に送り出した、名門中の名門である。開発自体は外注とはいえ、企画会議には当然タイトーの人間も出席しているはず。では何故、あのようなクソゲーを作ってしまったのか。その真相は簡単で、ビートたけし本人が開発に深く携わったからというもの。たけし本人はほとんど記憶にないようだが、打ち合わせの席では、アイデアを次々に出していたと、後年関係者が語っている。本人の意向をないがしろにすることもできず、その多くを採用したところ、とてつもなくカオスなゲームになってしまったのだ。

 「赤信号、みんなで渡れば恐くない」「気をつけよう、ブスが痴漢を待っている」等、ギリギリ…というか現在では完全にアウトなギャグを連発し、芸人としてノリにノッていた時代である。当然、本人が出すゲームのアイデアも奇想天外なものばかり。街金業者が入った古びた雑居ビルにパチンコ店、カラオケスナックにヤクザ映画を上映する映画館と、本作の雰囲気はどこか退廃的だ。これも全てはたけしのアイデアを優先させた結果だという。ただ、何となくだが、北野武監督が作る映画の世界観を彷彿させるのがまた面白くもあり、ヤクザが随所に登場するのも、世界のキタノに通ずるものがある。

 ちなみにこのゲームでは、全てではないが、点在する街の施設に入ることが可能。カラオケ店では、IIコンのマイクで実際に歌うことができ、そのバリエーションも演歌にポップス、民謡に童謡と多種多様。同様に、パチンコ店では古き良き時代のパチンコを堪能することもできる。

 そんな本作は、主人公の職場である「にこにこローン」の社長室からゲームがスタート。ここから先は辞表を提出し、家に戻って妻と離婚という順序でストーリーが進む…のだが、ここまでノーヒント。しかも、妻との離婚はスナックで酔いつぶれて、家に搬送されるという煩雑な手順を踏まなければならない。その他、「宝の地図」の謎を解くために、その場でゲームを1時間放置(=あぶりだし)といったような、自力では到底攻略不可能な謎が幾つも散りばめられている。一応は攻略本が発売されたものの、それを読んでもクリアできない人が続出し、出版社には批判の電話がひっきりなしにかかってきたという。あまりにも数が多いため「担当者は死にました」という前代未聞の言い訳で、この難局を無理矢理乗り切ったそうだ。

 数々の伝説を作り上げた本作。発売当時は雑誌のレビューも軒並み低かったものの、たくさんの奇抜なアイデアが散りばめられたゲーム性に先見の明があったということで、今では再評価もされており(クソゲーとして)、バーチャルコンソールでの配信も行われているほど。もし本作が現在の技術で蘇ったとしたら、あるいは『グランド・セフト・オート』のように、世界中で大ヒットする箱庭ゲームになるかもしれない。

(内田@ゲイム脳=隔週月曜日に掲載)

DATA
発売日…1986年
メーカー…タイトー
ハード…ファミコン
ジャンル…アクションADV

(C)TAITO CORP./ビートたけし 1986

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