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森永卓郎の「経済“千夜一夜”物語」 安倍劇場が開幕した

 安倍総理が'17年4月の消費税率引き上げと同時に、軽減税率を導入する方針を明らかにした。それも、マイナンバーカードを利用した還付方式ではなく、生活必需品に低い税率を適用して、税込価格そのものを引き下げる本格的な軽減税率を導入するというのだ。その発表を聞いて、私は「いよいよ安倍劇場が開幕したな」と思った。
 本格的な軽減税率の導入には、大きな手間がかかる。どの品目を軽減税率の対象とするのかの線引きも難しいし、食料品を扱う商店は税率が2本立てになるから、帳簿を区分経理する必要がでてくる。自民党税調は簡易方式を検討するとしているが、周知徹底には、相当の時間がかかる。それらの作業を1年半で終了させることなど、とてもできない。
 安倍総理はそれが分かっていて、消費税率引き上げの再延期に向けての布石を打ったのだろう。その判断は、政権を維持するためには極めて妥当なものだ。

 第一は、経済的な理由だ。現在の日本経済は、とても消費税率の再引き上げができる状態ではない。昨年4月からの消費税率引き上げによって昨年度の実質GDPは、前年比▲0.9%のマイナス成長となった。そして、今年4〜6月期の実質GDPも前期比▲0.7%とマイナス成長が続いている。さらに、8月の消費者物価指数は、前年同月比▲0.1%と、ついにマイナスに転落している。消費税率の引き上げが景気に致命的な打撃を与えているのだから、ここで再び消費税を引き上げれば、確実にデフレに逆戻りだ。
 消費税率引き上げを延期しなければならないもう一つの理由は、政治的なものだ。辺野古沖の埋め立て工事は、法廷闘争に持ち込まれようとしている。沖縄県知事の意向を踏みにじり強引に工事を進める政府の態度は、沖縄県民だけでなく全国民の不興を買うだろう。
 また、政府の打ち出したエネルギー計画は、実質的に稼働可能な原発をすべて再稼働するというものだった。この施策に対しても、反発する国民は多い。
 さらにTPP交渉の大筋合意で、これまで日本が関税を課してきた農産品の約半数が関税撤廃ということになった。途中経過が知らされていなかったので、農家の政府への不信感が高まっている。

 こうした状況では、とても来年7月の参議院選挙は戦えない。だから、安倍総理は選挙直前の来年6月に会見でこう宣言するつもりだろう。「自民党を勝たせてくれれば、消費税率の引き上げを延期します」。
 いまさら消費税引き上げ延期ができるのかと訝る人もいるだろう。確かに消費税率10%への引き上げに景気条項はついていない。しかし、与党が腹をくくれば、短期間でどんな法律でも成立させられるということを安全保障関連法案の審議が証明した。消費税率延期の法案を作るのは、とても簡単だ。単に現状を変えなければよいからだ。
 私は、もしかすると、この安倍劇場のシナリオを財務省も承諾しているのではないかと考えている。財務省にとって一番怖いのは、消費税引き上げの凍結、あるいは撤回だ。それと比べれば引き上げ延期は影響が小さい。だから、安倍総理が消費税増税を撤回しないよう、引き上げ延期という形で、すでに手を打っているのではないかと思うのだ。

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