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リハビリ密着取材3055日 ミスター完全復活への執念(1)(スポーツジャーナリスト・吉見健明)

 地方紙の『上毛新聞』(群馬)が長嶋茂雄、松井秀喜のW国民栄誉賞受賞をスクープした4月1日の月曜日午前7時10分、リハビリを日課とするミスターの姿はなかった−−。私はいつものように、時間厳守の長嶋茂雄(ここからミスターと呼ばせてもらう)を待ったが、ついに多摩川台公園にはこなかった。
 国民栄誉賞が表面化したこともあり、ミスター担当のT広報がその旨を伝えたからだ。月曜日は決まって東京・田園調布の自宅近くの多摩川台公園でリハビリ散歩をするのだが、ここは一般人も通る公園である。今では、ミスターがリハビリをするのを知っている住民も増えてきたから、混乱を避けたのだ。

 2004年3月、ミスターが脳梗塞で倒れて以来、私はずっと動向を追ってきた。ミスターのリハビリ取材でいえば、3055日(4月10現在)になる。
 '07年1月、星野仙一(現・楽天監督)が〈北京五輪監督に就任〉と新聞で報じられた翌日から、五輪監督就任を励みにしていたミスターは10日間リハビリを休んでいる。あとリハビリ休養日である日曜日(当初の3年間はリハビリをしていたが、休養日を作るべきだと主治医の指示で休むようになった)以外、雨の日も風の日も関係なく、ミスターは続けてきた。

 ミスターのリハビリで驚かされるのは、その回復力の速さと生命力だ。脳梗塞で倒れ、生死を彷徨ったミスターに対し、主治医は“寝たきりを覚悟”と長男・一茂に伝えたほどだ。
 そんな重体だったにもかかわらず、退院後リハビリを開始。翌年の'05年6月には、リハビリの際、すでに杖をはずして歩いていた。車の乗り降りにも杖は使わなくなった。4年目からは、介護士が万一の場合に備え横で杖を持って歩くこともしなくなった。
 多摩川台公園下から田園調布の自宅までの坂道も一気に上がり、今では15分で完了する。私が歩いても息がキレるほどの坂道だ。

 ミスターのリハビリで変わったのは、回復力だけではない。表情も明らかに違う。
 初めの3年間は悲壮感漂うリハビリだった。見ている方にも怖いくらいの執念が感じ取れ、必死に歩いていた。それが5年前からはリハビリを楽しんでいる様子が一目瞭然なのだ。
 たとえば、土曜日は都内の自然公園内を歩くのだが、最後の500メートルは早足走法なうえ、公園に響き渡るような大声を出す。
 「イチ、ニ、サン、シ」
 介護士の号令と合わせて、ミスターも腹の底から声を張り上げる。声のリハビリを兼ねているから迫力も十分だ。今年からは、リハビリ開始から取り組まれるようになった。
 介護士はリハビリが終わると、主治医に携帯電話で報告している。
 「右足(麻痺が残る)爪先で地面を蹴って歩けるようになりました」
 と介護士も自分のことのように喜んでいる。以前のような暗さはなく、爽やかな表情と笑顔があった。

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