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『江〜姫たちの戦国〜』第6回、あり得ない展開にも脚本の奥深さ

 NHK大河ドラマ『江〜姫たちの戦国〜』の第6回「光秀の天下」が、2月13日に放送された。突っ込みどころ満載でありながら、脚本の奥深さが感じさせた。

 堺で本能寺の変を知った江(上野樹里)は、徳川家康(北大路欣也)と命がけの伊賀越えをする。しかし、家康と別れた後は上野城に到着したものの、野武士に捕らわれてしまう。安土城に送られた江は明智光秀(市村正親)と対面し、なぜ謀反を起こしたのかと問い詰める。史実や時代考証を重視する視聴者ならば、テレビに向かって「あり得ない」と突っ込みたくなる展開がテンコ盛りである。

 しかし、このあり得ない展開も『江』の一生を描くドラマでは意味が出てくる。安土城に送られた江が最初に対面する人物が、光秀の家老の斉藤利三(神尾佑)である。利三は江に対して高圧的で、紳士的な光秀と対照的である。これは直近の演出効果としては、光秀の人間味を際立たせ、敵であっても光秀を憎めないという江の心情に説得力を持たせている。

 この利三の娘が後の春日局であり、将軍継嗣問題で江は春日局と対立する。長期的に見れば春日局との確執の伏線として、江を斉藤利三と対面させたのではないかと思えてくる。そして利三と対面させるために、家康との伊賀越えからの、歴史的にはあり得ない展開としたとも考えられる。

 実際、『江』の脚本は意外と練られている。今回は上野城にいる市(鈴木保奈美)や茶々(宮沢りえ)、初(水川あさみ)が本能寺の変を知るところから始まる。本能寺の変は彼女たちにとって衝撃であった。彼女たちの庇護者であった信長の死は、彼女らの生存にとって一大事である。現実に彼女たちは清州城へ避難する。

 一方で信長の死に動揺する展開は、従前の茶々や初の設定と矛盾する。茶々や初は父親を殺した信長に反感を抱いていたためである。これまでの流れからすれば、信長の死に「天罰」と冷淡に反応してもおかしくない。ここに従前の流れと新たな現実との間にギャップが生じる。

 このギャップをドラマでは上手く回避した。初が憧れていた森坊丸・力丸の死に嘆き悲しむことで、信長への複雑な感情は隠された。イケメンの森兄弟に初がメロメロになる展開は典型的なスイーツ大河として、多くの視聴者の嘲笑の対象となった。しかし、本能寺の変に嘆き悲しむ初を描くためには必要な内容であった。考え抜かれた脚本の『江』に今後も注目である。

(林田力)

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