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世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第127回 大阪都構想とは何だったのか?

 5月17日、日本どころか世界の歴史をも変えた可能性がある「住民投票」が大阪市で実施された。すなわち、大阪市の廃止・解体を求める特別区設置協定書(いわゆる「大阪都構想」)への是非を問う住民投票である。
 結果は反対が70万5585票、賛成が69万4844票。その差、わずか1万741票。有効投票総数に対する「差」の割合、0.77%。
 最低投票率が設定されていないため、1%に満たない得票差により、大阪や日本国の運命が大きく変わったことになる。

 そもそも、大阪市を廃止・解体し、自治権が制限される五つの特別区に分割する「大阪都構想」は、2014年10月時点で、大阪市議会により「否決」されているのだ。
 無論、議会の決定に対し不満を持った「住民」が、住民投票に訴えるというならば話はわかる。ところが、今回は議会が否決した構想を、首長(大阪市長)が住民投票で実現しようとしたのである。
 間接民主主義を根底から否定するやり口に、筆者は当初から違和感を覚えた。
 なぜ、大阪市議会が大阪都構想を否決したのかといえば、メリットがないためだ。その割に、デメリットは山ほどある。しかも、大阪どころか日本国全体を衰退に導きかねないデメリットの数々だ。

 都構想推進派である維新の党は、都構想のメリットとして「二重行政廃止により、財政効果が4000億円」などと喧伝していた。
 正確に書くと、二重行政廃止とやらの財政的な効果は、2010年時点では「8000億円の財源を確保できる('10年 松井一郎知事(当時は幹事長)」と主張。その後「最低ラインは4000億円('11年 橋下徹市長)」、さらに'15年時点では「17年間で2700億円('15年 都構想推進派のパンフレット)」と、次第に効果額が先細っていった。
 とはいえ、もともと大阪市の法定協議会の資料では、都構想の財源効果は「1億円」となっているのだ。
 しかも、都構想により大阪市を解体すると、初期投資コストが600億円かかる。何と、600年かけなければ、初期コストを回収することすらできない計算になる。

 大阪都構想に、財政的なメリットは全くない。逆に、デメリットは多数ある。
 経済面に絞っても、
 (1)大阪市が“解体”されるため、今後、数年間は行政が組織改編に追われ、大阪で前向きな投資が不可能になる。
 (2)旧大阪市から大阪府に吸い上げられる2200億円の税収の多くが、市外で使われる(恐らく府債の償還)ため、旧大阪市地域のGDP(国内総生産)が減る。
 (3)当然、旧大阪市の子育て、学校教育、医療、介護、街づくり、ゴミ処理等の行政サービスの品質は低下する(予算削減により)。
 (4)大阪市都市整備局が解体されるため、都市計画機能が著しく落ちる。結果、リニア新幹線や北陸新幹線等の大阪市への引き込みが、計画や予算があっても不可能になる。
 (5)片や、東京五輪に向け、東京圏では投資が盛んになる。企業や人は「大阪圏⇒東京圏」と移動することはあっても、逆は起きず、一極集中が悪化する。

 など、明らかに大阪市や日本国を“衰退”に向かわせるデメリットがあるわけだが、これらに対し推進派が具体的に反論することはなかった。
 (2)に対してのみ、「特別会計を設けるため、旧大阪市の税金が市外に使われることはない」と反論していたが、協定書には特別会計の「と」の字もない。
 旧大阪市の税金が市外に流出し、自分たちのために使われなくなることを知った大阪市民の多くは、都構想に反対票を投じることになる。それを恐れた推進派が「特別会計」などと言い出したに過ぎないのだろう。

 ちなみに、旧大阪市から大阪府に吸い上げられる2200億円の使い道について、5月12日に民主党の尾立源幸議員が国会で総務大臣に質問している。
 高市早苗総務大臣は、2200億円について「大阪府で判断するべき。大阪府で選出された住民(府議会議員)と行政の長(大阪府知事)によって、十分な意思疎通が図られ、現場で決められていくべきもの」と答えている。当たり前である。
 協定書に該当する文言がない以上、旧大阪市から大阪府へと移される2200億円は、大阪府議会及び大阪府知事が支出先を決定するべき性質のおカネだ。そして、大阪府議会において、大阪市選出の議員は3割に過ぎない。
 7割が市域外の府議会議員という状況で、2200億円を「旧大阪市域内のみで使う」などという話になるはずがない。

 現在の大阪市は財政黒字だ。そして、大阪府は府債発行に総務大臣の許可を必要とする起債許可団体なのである。
 当然ながら、大阪府は「何らかの財源」を手に入れ、負債を償還し、起債許可団体から脱却したいと考える。大阪府議会議員の「7割」も同様だ。その状況で、2200億円が「旧大阪市内のみで使われる」などといわれても、信じる者はいない。

 だからこそ、維新の党を中心とする大阪都構想推進派は、様々な“ウソ”をつき、市民を騙そうとしたのだ。だいたい、大阪「都」構想というネーミング自体がウソだ。
 住民投票で大阪市の廃止と特別区設置が決まっても、別に大阪都が誕生するわけではない。大阪都を実現するためには、国会で法律を通し、さらに今度は大阪府全体で住民投票を実施し、賛成多数とならなければならないのだ。

 推進派は、上記以外にも「都構想は総務省のお墨付きを得ている」「都構想の住民投票はワンチャンス。今回を逃すと二度とできない」など、あからさまなウソを平気で繰り返した。
 実際には、総務大臣は協定書について「特段の意見がない」と述べたに過ぎず、さらに大都市地域特別区設置法に基づく「特別区設置」については、回数制限があるわけではない。
 大阪市民は“ウソ”の情報に基づき、危うく自分たちの自治体を解体するところだったのだ。情報の重要性がこれほどまでにクローズアップされた選挙を、筆者は他に知らない。

三橋貴明(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、わかりやすい経済評論が人気を集めている。

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