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性行為感染症の闇 アブない“隠密”自主治療疑惑が浮上

 医療機関を受診しなければ治療できなかった、性行為感染症(STD)の性器ヘルペス。その治療薬「アシクロビル」が薬局で買えるようになり、患者にとっては朗報…と思いきや、この“神の軟膏薬”を塗ることができるのはくちびるの周囲だけ。性器ヘルペスへの使用は認められていないのだ。

 ヘルペスウイルスに感染すると、唇や性器の周囲などに無数の水疱(すいほう)ができ、痛みや発熱を伴う。免疫力が落ちた時にウイルスが活性化し、数週間から数年おきに発症。水疱がつぶれて他人に接触することで感染する。
 このヘルペスの治療薬として登場したのがアシクロビル(成分名)だ。イギリスに本社を置く「グラクソ・スミスクライン」(以下、GSK)が「ゾビラックス」の商品名で売り出し、日本でも1980年代から皮膚科、泌尿器科などで処方されている。
 このアシクロビルが医療用から一般用に転化され、GSKが「アクチビア」、そして国内最大の一般薬メーカー「大正製薬」が「ヘルペシア」として2007年10月から薬局で売り出した。2社による併売だ。

 アクチビアもヘルペシアも、成分はゾビラックスと同じ。ところが国と企業は、効能を「口唇ヘルペスの再発」に限定した。性器ヘルペスや初発の口唇ヘルペスには、効くはずなのに使えない。
 国は医療費高騰抑制のため、軽い病気なら医療機関にかからず自分で治そうと、セルフメディケーション(自己治療)を推進。多くの医療用医薬品が一般薬に転化されている。
 しかし、安易な自己判断でかえって健康を害する恐れがある疾患は受診が不可欠。性器ヘルペスや初発の口唇ヘルペスも「自己治療は危険」と、国と企業は判断した。
 だから、07年にアシクロビルが一般薬として承認された際、購入者が本当に口唇ヘルペスの再発なのか、薬剤師が現場で厳重にチェックすることが義務付けられた。

 一般薬としての発売後1年あまり、両薬がどの程度売れたのか2社は公表を控えている。発売前に大正製薬は「初年度5億円」と目標を掲げたが、それをクリアできたのかどうかさえ明らかにしない。
 かなり売れているようなのだ。しかも、効能の「口唇ヘルペス再発」以外で買い求めるケースが少なくないと見られる。
 首都圏の複数のドラッグストアで、実際に両薬を買い求めてみた。薬剤師によるチェックは、いずれでも受けなかった。
 新製品の投入でGSKは、アクチビアのテレビCMに女優の森脇英理子(27)を起用。ヘルペシアの大正製薬は、女優・比嘉愛(25)を投入した。CMで森脇は、くちびるの痛々しい水疱を見せながら、「口唇ヘルペス、出たらどうする?」と画面に訴えかける。比嘉は、「見られたくな〜い」と頭を抱える。
 いずれも口唇ヘルペス再発を念頭に置いた内容。これが性器ヘルペス治療薬のテレビCMだったら違った作りになったであろうし、若手女優が出演することはなかっただろう。
 性感染症の治療薬と同一成分だということを、清楚な女優をCM起用することでオブラートに包んでいるつもりなのかもしれない。

 09年6月施行予定の改正薬事法では、一般用医薬品を副作用の程度によって「第1類」「第2類」「第3類」に分類。最も厳格な「第1類」は、薬剤師が手渡しし、商品内容や利用法について文書で購入者に説明しなければならない。
 一般薬に転化したばかりのヘルペシア、アクチビアは「第1類」に分類されることが決まっている。まさに「法改正前夜」に承認され、法の精神を先取りして「薬剤師による厳格なチェック」を条件とされたのに、現場ではそれが守られていない。
 医療用医薬品の中でもゾビラックス(アシクロビル)は副作用が少なく比較的安全な薬とされるが、自己判断でヘルペスではないのに妄信して使うなどで、症状の悪化が懸念される。性行為感染症は、部位が下半身だけに医療機関に掛かりたくないのが患者のホンネ。薬局で買った薬でこっそり治したい、との心理が働くのは当然だ。インターネットのサイトでも、こうした悩み相談と怪しげな回答が散見される。
 患者心理を企業側は逆手にとって、好調な売り上げの要因のひとつと考えられる「認められた効能以外の使用」を、見て見ぬふりするかのようなのだ。

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