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2012年『12球団合同トライアウト』 戦力外通告で見せた男の生きざま(佐伯貴弘選手編)

 トライアウト史上、『初めての光景』ではないだろうか。
 横浜、中日で活躍した佐伯貴弘選手(42)が第2回トライアウトを受験した。ご周知の通り、佐伯選手は2011年に中日から戦力外を通告され、現在は“野球浪人”である。今年11月も千葉ロッテの入団テストを受けたが、『不合格』。その情報はトライアウト会場に駆け付けたファンも分かっていたのだろう。佐伯選手にはひと際高い拍手と声援が送られていた。

 結果は、2打数1安打2四球。佐伯選手は『囲み取材』で、こう答えている。
 「今年1年間やってきたことに基づいて、しっかりとそれができたと思う。遠回りではなかった。納得? 納得というか、ここまで自分がやってきたことには納得しています」

 −−千葉ロッテの入団テストでは、『合格』とはならなかったが?
 「いや、本当に感謝しています。入団テストを受けさせていただき、紅白戦にも出させてもらい、実戦感覚がやらせてもらったというか、素晴らしい環境を与えていただき、本当に感謝しています」

 −−トライアウトの合否が出た後は…。
 「オファーが何処からもなければ…。えっ、海外? 何も考えていないけど、今後、どうするかは決めていません。これから考えます。これから考える…。だから、今言ったら、後で決めたことと違ったらウソを付いたことになるでしょ? 今の時点で今後のことは言えません」

 囲み取材の前方に陣取っていた記者の1人が、千葉ロッテ・伊東勤監督からのメッセージを伝えた。「佐伯は絶対に将来ユニフォームを着て、指導者になる男だから、悔いの残らないよう頑張ってほしい」−−。この第2回トライアウトを取材して、伊東監督が彼の去就を気に掛けた理由も分かった。佐伯選手は守備に着いた際は投手に檄を飛ばし、また、打席の順番待ちをしているときも、投手、打者の両方に声を掛けていた。「今日は実戦感覚で久しぶりに野球ができて、本当に楽しかった」とも話していたが、これまで、檄を飛ばす受験選手は見たことがない。

 「お互いに立場は同じ。そのなかで違うのは、僕の方が年齢が上だということ。できることは声を掛けてやること。敵、味方とか関係なく、1人の野球人として…」

 −−伊東監督も心配していたが、今日のトライアウトに『後悔』はないか? 
 「だいたい、辞める選手って『もうちょっとあのとき』とか『あれができていたら…』って言うんですよ。オレ、そういうの、大っ嫌いなんですよ。自分はいつ棺桶に入ってもいい、これ以上できませんっていうくらいやって来たつもりだし、成績の善し悪しはともかく、そこに臨むまでの準備はいつも万全を期してきたつもりだし、そういう意味では『後悔』はないです」

 このときの強い口調もそうだったが、ここまで自分のことを「僕が」と話していた佐伯選手が「オレ」と言った。野球人としての熱い思いを隠しきれなかったのだろう。

 ヒットの数ではなく、ここに臨むまでの準備で万全を期してきた−−。佐伯選手は最後にこう語ってくれた。

 「今日に至るまで自分は1人でやってきたつもりはありません。手伝ってくれる人、キャッチボールをしてくれた人、マッサージをしてくれた人、ティーを挙げてくれた人、色々な人がいて、自分のワガママに付き合ってくれたんですね。感謝しています」

 球場を出ると、まだファンが残っていた。サインをねだられた。
 「今、自分は選手ではないからサインはできません。…握手しよう!」
 佐伯選手は時間も惜しまず、球場外に待っていたファント握手を交わした。「佐伯コール」が沸き上がった。トライアウト史上、初めてではないだろうか。

 「今日が最後? まだ分からない。今は何も考えられない。何年か経って、『あのときが最後だったんだな』って思い出せばそれでいいじゃないですか」

 充実した日々を送るにはどうすればいいのか。佐伯選手の言葉には、我々ビジネスマンにも通じるものがある。(スポーツライター・美山和也)

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