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本好きのリビドー

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提供:週刊実話

◎悦楽の1冊
『墓標なき草原―内モンゴルにおける文化大革命・虐殺の記録』上・下巻 楊海英 岩波現代文庫 各1420円(本体価格)

★隠ぺいされた残虐の歴史を解き明かす

 一ページ読んではため息をつき、五ページ進んでは天を仰ぎ、十ページまで来て思わずページをめくる手を止めて暫し瞑目する…気がつけばその繰り返し。本欄を担当して以来、これほど先を読み進めるのが辛く応える本はなかった。しかしまぎれもなく直視を迫る、恐るべき現場からの報告だ。

 建国70年に沸く現在の中国が少しでもそれを連想させる単語のネット検索すら許さないのは1989年6月4日の天安門事件といわれるが、その前に大多数の国民に癒し難く深い傷を心身共に負わせたものこそ60年代から70年代にかけ政治的大暴風雨のごとく全土に吹き荒れた文化大革命なのは間違いない。

 本書はその凄惨極まる魔の季節が内モンゴル自治区にいかに訪れ、かつ本質的には、実はいまだ去りやまぬかを徹頭徹尾告発した、あくまで文体は静謐ながらも筆先にインクでなく血の滲むような記録である。

 蒋介石の国民党軍に追い詰められた時期には少数民族の自立に理解と共感どころかそれを後押しするかの甘言を弄しつつ、ひとたび内戦に勝っていざ大陸で覇権を握れば即座に手のひら返し。漢人絶対中心の国家体制下、モンゴルの知識人が僅かに自主独立を唱えようものなら“民族分裂主義者”の烙印を押され、無慈悲に葬られてゆく。

 またチベットの鎮圧にモンゴルの騎兵を差し向けるなど“夷を以て夷を制す”共産党政権のやりくちの悪辣陰湿ぶりも悉くやりきれないが、ふと想起するのが1997年の香港返還を記念して公開された映画『阿片戦争』。あの作品、イギリスの横暴に怒った清朝が屈辱的な敗北を喫してから苦難の近代が始まった…式の演出だったはずだが、共産党が国共内戦中に活動資金源にしたのも本書によればアヘンの密売だったとか。没法子。
_(居島一平/芸人)

【昇天の1冊】
 出版社のKADOKAWAが発売しているウォーカームックから、面白い1冊が出た。『町中華Walker』(780円+税)だ。福岡をはじめ九州には個人経営のうまい「町の中華料理店」が数多く、それらの店を特集している。

 町中華の名店の特徴は、開店が昭和で、歴史が長く、店内は古めかしく、だが、安い・おいしい・早いと三拍子揃っていること。さらに個人経営だから、親しみやすいおっちゃん、おばちゃんが店を切り盛りし、何年経っても味が変わらない。常連客は長年にわたってヒイキにしている場合が多い。

 そうした、知る人ぞ知る地元の名店ばかりを紹介しているから、ミシュランが推す高級グルメガイドなどと違って肩肘張らず、気軽さが満載。料理もチャーハン、麻婆豆腐にエビチリ、鳥の唐揚。つまり、週刊実話読者のオヤジたちが、少年の頃から愛し続けたメシが、これでもかとてんこ盛りなのである。

 また、九州では餃子酒場が出店ラッシュらしく、こちらは20〜30代の若手店主たちが味を競っているとか…。餃子といえば、ビールのお供に最適な一品。これもまた食欲をソソられる各店がズラリ。

 中華は時々、無性に食べたくなる。だが、加齢を重ねたオヤジにとってはしつこい、胃にもたれるデメリットもある。ここで紹介した店はそれぞれ工夫を凝らし、あっさり食えて満腹、しかも胃に重くない。中高年にはうれしい限りだ。

 食欲の秋である。ガッツリ食べ歩くための案内書としてオススメの1冊だ。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)

【話題の1冊】著者インタビュー 塙宣之
言い訳 関東芸人はなぜM−1で勝てないのか 集英社新書 820円(本体価格)

★自分も漫才師なので漫才をもっと面白くしたい

――昨年、審査員として8年ぶりにM−1に戻ってきました。どんな思いでしたか?
塙 もう一度、あの雰囲気を味わえることができて、胸がキュンとなりました。と同時に出演者でなく審査員なのでしっかりと悔いのない採点をしようと決意しました。ナイツは、M−1の決勝に進むまでに、結局、8年かかりました。M−1のおかげでモチベーションを維持できたし、新ネタも作ることができました。審査員席のネームプレートに『ナイツ塙』とあったのを見た時は、感無量でしたね。

――2001年から開催されているM―1ですが、出場資格が結成10年以内から15年以内に変更されましたね。どのような違いがあるのでしょうか?
塙 10年以内までの大会は、ラストイヤーまでが短い分、早めに漫才のスタイルを確立して結果を残そうとする発想の大会でした。しかし、新しく15年以内の大会に変更になったことで、逆に“上手さ”や“仕上がり感”が強い10年戦士たちがフィーチャーされる大会に変わったんです。
 日本一の漫才師を決める大会としてはそれでいいと思いますが、以前のような“発想”や“新しいスタイル”で勝負している芸歴が短い若手まで、目が届きにくい大会になってしまったとも思います。僕らの時代がそうであったように、M−1は下手でもなにか面白くなりそうな雰囲気の芸人を評価する大会であってほしいと思っています。

――M―1では関西芸人が圧倒的に強いです。関東芸人が勝つための“秘策”はあるのでしょうか?
塙 関西弁に比べて、標準語は圧力が弱いような気がします。漫才をする上で今の東京言葉が勢いをつけにくく、かつ感情を表現しにくいのは、誰もが聞き取りやすく、諍いが起きないよう感情を読み取られにくい言葉として変化を遂げてきたから。
 一方、コンテストは、面白さ以上に勢いやお客様への圧力が不可欠になるので、圧力が出るような漫才を作るべきだと思います。例えば、テンポをめちゃくちゃ速くするとか、コントに入って違うキャラになってボケまくるとか。

――常に“新しさ”が求められるM―1ですが、今年はどんなコンビに期待していますか?
塙 別に誰にも期待してません(笑)。なぜなら同業者だし、自分も現役バリバリの漫才師なので、後輩に使うパワーがあるなら自分たちの漫才をもっと面白くしたい方に使いたいからです。強いて言うなら、誰にも似ていないスタイルをする若手を見てみたいですね。
(聞き手/程原ケン)

塙宣之(はなわ・のぶゆき)
芸人。1978年、千葉県生まれ。漫才協会副会長。’01年、お笑いコンビ「ナイツ」を土屋伸之と結成。’08年度以降、3年連続でM−1グランプリ決勝に進出する。第67回芸術選奨大衆芸能部門文部科学大臣新人賞など、受賞多数。

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