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『ONE PIECE』第64巻、通過点での格下相手にドラマを盛り上げ

 尾田栄一郎が『週刊少年ジャンプ』に連載中の漫画『ONE PIECE』第64巻が、10月4日に発売された。不評も多い魚人島編であるが、この巻から敵味方が明確になり、主人公モンキー・D・ルフィら麦わらの一味が戦闘に本格参入する。虐げられた多数の人々の想いを背景にしてルフィらが戦う構図は過去にも描かれてきたワンピースの王道である。

 異例の4週休載後に突入した魚人島編であったが、必ずしも評価は高くない。しかし、魚人島編が盛り上がりに欠けることには理由がある。魚人島は最初から新世界への通過点という位置づけである。
 『ONE PIECE』ではグランドライン一周という目的は提示されているが、そこに至る経路は明示されておらず、ログ任せの航海を続けていた。これに対して魚人島は新世界へ出るための通過点と決まっている点が異なる。読者にとっては魚人島の出来事よりも、新世界側に本部を移した世界政府海軍や新世界に君臨する四皇が気になるところである。
 さらに敵のボスキャラの小物感がある。新魚人海賊団のホーディー・ジョーンズはルフィがグランドラインに入る前に倒したアーロンから見れば洟垂れ小僧であった。ルフィにとっては格下の相手である。
 ありきたりのバトル漫画では次々と強敵が登場する強さのインフレの宿命にある。ホーディーがアーロンの兄貴分だったジンベエを瞬殺するほどの力を示し、それをパワーアップしたルフィが倒すという展開ならばバトル漫画としては盛り上がるが、物語の中の強さのヒエラルキーは破綻してしまう。
 このように捉えれば魚人島の失速を嘆くよりも、通過点での格下相手の戦いであっても、ここまでドラマを盛り上げることが称賛に値する。

 同日には空知英秋が『週刊少年ジャンプ』に連載中の漫画『銀魂』第42巻も発売された。この巻では真選組と見廻組の対立を描くバラガキ編が目玉である。普段よりも収録話数を多くしてバラガキ編を完結させており、コミックス読者には嬉しい限りである。
 バラガキ編は史実の新選組と京都見廻組の対抗意識を想起させる。過去の『銀魂』でも史実の伊東甲子太郎の離反を下敷きにした真選組動乱編の人気が高く、バラガキ編への期待も高まる。
 このバラガキ編はシリアスなストーリーの中でもギャグが冴える。登場人物のセリフに「メールに返信しないメル友など不要」というものがある。一見すると、まともな台詞に思えるが、これは悪役の台詞である。メールに返信しない側が善玉で、一方的なメールに返信があって当然と考える方が悪玉になっている。
 『銀魂』では第40巻収録のギャグ短編で、メールに即座に返事することで絆を確認するコミュニケーションよりも、リアルな絆を重視する話を描いたが、電子メール依存症への風刺がシリアス長編にも登場した形である。
 このバラガキ編では悪役も最後は善人的な面を見せるという日本的なナイーブな展開で終わると見せかけたものの、サプライズが用意されていた。悪役は今後も主人公達の敵として立ち塞がることを予感させる。最終決戦への期待と物語の終幕が近づくことへの寂しさが混じる結末であった。

(林田力)

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