「日本では外国のクレジットカードを使って引き出しが可能な銀行は、同行とゆうちょ銀行しかない。ゆうちょ銀の24時間使用できるATMは全2万7000台あるうちの約540台にすぎないが、セブン銀のATMは全国に約2万2000台もある。この利便性を突かれたのです。このときの犯人は、武器も持たず、決して人前に姿を見せないことから『21世紀型の銀行強盗』と呼ばれています」(前出・ジャーナリスト)
しかし磁気カードはいくら偽造が簡単とはいえ、安価な機械で作るとバグを発生させる“不良品”が1、2割は出るという。
「バグが出たカードは、ATMに入れるとそのまま飲み込まれてしまう。普通は大量の“不良カード”が検知されれば、ATMを管理する銀行に情報が伝わってロックがかかり、現金が引き出せなくなる。だから『18億円事件』の指示役は、銀行の監視がおろそかになっている日曜日の早朝を狙った。逮捕された“出し子”が口にしたのは、ある半グレ集団の名だったそうだ」(反社会組織の一員)
この事件では山口組系の組幹部とその組員が逮捕された。犯行の全容解明はこれからだ。
「国内のカードのIC化率はキャッシュカードで3割弱、クレジットカードでも約7割にとどまり、そのため日本のATMは、ICと、偽造が容易な磁気テープの両方使える利便性が優先されている。とはいえ、2020年の東京五輪・パラリンピックまでにクレジットカード決済端末のIC化を100%にすることを目標に掲げています」(前出・ITコンサルタント)
つまりは『21世紀型の銀行強盗』にとって、同種の犯罪を実行するのはまさに「今でしょ!」ということ。再び近いうちに、同様の事件が起きる可能性は大だ。
ところで、今回の『銀聯カード事件』の犯人摘発に当たっている特捜隊とはどんな組織なのか−−。
「'11年に都営アパートの一室を“特別捜査本部”に改造し結成されています。結成のきっかけは、'10年11月に起きた歌舞伎俳優、市川海老蔵の殴打事件でした。当時、東京・六本木を拠点にしていた『関東連合』や中国残留孤児の2世、3世らがつくった『怒羅権(ドラゴン)』など暴走族OBらで連携する半グレ組織を把握するのが狙いでした。だが、そもそも特捜隊は、偽造カード犯罪の捜査に専従していた捜査員で結成されています。『18億円事件』で、複数の拠点に集められた現金は、その日のうちに地下銀行から某大国へ送金されていることからマフィアや日本国内の暴力団とパイプを持つ半グレ組織が実行しているはずで、主犯格のメンバーは、犯行直後に高飛びしています。『銀聯カード事件』との関連もプンプンにおいますね」(前出・ジャーナリスト)
“出し子”をいくら逮捕しても、本当の黒幕にはたどり着けない。それが悩ましいところだ。
「両事件の“出し子”は、統率が取れた部隊として編成されていた。こんな芸当ができるグループは限られています。“出し子”をコントロールしていたのは金ではなく恐怖ですから、彼らは捕まってホッとしていますよ」(同)。
『21世紀型の銀行強盗』は国境を越えた場所に潜んでおり、逮捕に至るまでには多くの壁がある。まずはIC化を急ぐしかない。