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本物志向の音楽ファンも納得させた「ロックなアイドル」…本質と魅力を探る

 前回の連載では、BABYMETAL成功の理由のひとつとして、凄腕ロックミュージシャンによる本格的な演奏をあげた。ゴリゴリのロックサウンドと、ロリータ風味のアイドルというのは、一見食い合わせが悪そうにも思える。しかし、過去を振り返っても、「アイドル×ロック」というのは決して珍しいアプローチではない。近年でも、いかにも可愛らしい軽妙なアイドルポップではなく、男臭いロックをバックにパフォーマンスするアイドルは増えている。「ロックなアイドル」の魅力と急増の要因は、どのあたりにあるのだろうか?

 70年代、ディープ・パープルの『ブラック・ナイト』をカバーしていたのは、グループアイドルのフォーマットを作ったとも言われるキャンディーズだ。そこまで遡ると、さすがに現実味がないかもしれない。現代のアイドルファンがイメージしやすいのは、ももいろクローバーZの『猛烈宇宙交響曲・第七楽章「無限の愛」』あたりだろうか。アイドルオタクたちの耳にもなじむような味付けはされているものの、元メガデスのギタリスト、マーティ・フリードマンが奏でるリードギターは、アイドルソングという枠組みをあっさりと飛び越えた。

 そのマーティ・フリードマンをして、「この曲知ってる? オクターブリフと曲全体的超良い!」(ツイッター原文ママ)と言わしめたのが、アンジュルムの最新曲『出すぎた杭は打たれない』。BPM233という超高速ビートと相まって、「出すぎた=Death Guitarの語呂合わせ」説も生まれるほど、さらにコアなロックサウンドを打ち出している。こうなると、もはや「アイドル」だの「ロック」だのといった音楽ジャンルの境界線はないも等しい。

 アイドルがロックを歌うとき、ざっくりと大別すれば2つのアプローチがある。ひとつは、楽曲やアレンジの方向性、またスパイス的な味付けとして、ロックを取り入れるというやり方。前述のももクロやアンジュルムの両曲もこの系統であり、そこに特化したアイドルグループとしては、客席へのダイブやヘッドバンギングをパフォーマンスに取り入れたアリス十番、Dragon AshやTOTALFATのメンバーも楽曲を提供するベイビーレイズJAPANなどが挙げられる。ベイビーレイズJAPANにおいては、「IDOL」と「ROCK」を掛け合わせた「IDOROCK(アイドロック)」を掲げ、今年9月に行われたグループ初のZepp公演2DAYSでも全編生バンドによるライブを披露している。

 アイドル×ロックのもうひとつのアプローチは、単に「ロック的な楽曲をアイドルに歌わせる」のではなく、「アイドル自身がロックをやる」という仕掛け方だ。2011年の再結成(2013年に活動終了)で話題を呼んだZONEも、もともとはありがちなボーカル&ダンスユニットだったが、メジャーデビュー時に「バンドル(BANDOL)」へと路線変更して、注目を集めるきっかけを作った。

 このZONEの例でも分かるように、アイドルがロックを取り入れる場合、ほかのアイドルとの差別化を図り、話題性を創出するのが主な狙いだろう。だが最近では、そうした「売り出すための仕掛け」に留まることなく、日々技術的なアップデートを重ねて、本格派へと進化(深化)するグループも増えている。先のZONEも、デビュー当初は楽器を持って当て振りするだけの“なんちゃってバンド”だったが、3rdシングルの『secret base 〜君がくれたもの〜』からメンバー自身が演奏するように。数年後には、実力派のガールズバンドとして日本武道館での解散コンサートも成功させた。

 ギミックとしての「バンド風」から、本物志向の音楽ファンも納得させる「バンド」へと成長した者の代表が、SCANDALだ。結成前までは楽器に触ったこともないダンススクール生の女の子4人が、今や国内31公演、海外10公演、全9か国を巡るワールドツアーを成功させる“本物の”ロックバンドに。その歩みには、元モーニング娘。の田中れいながボーカルを務めるLoVendoЯ(ラベンダー)や、メンバー全員がバンドと並行してモデル活動を行なっているSilent Sirenなども勇気づけられているはずだ。

 激しいサウンドに合わせて歌って踊るだけでも、あるいは自ら本格的な演奏をこなす場合でも、アイドルがアイドルソングを歌わずに、わざわざ「ROCKする」理由の裏には、「ギャップ」という魅力があるのは言うまでもない。BABYMETALが海外ロックフェスでウケている要因のひとつもそこにある。新進のグループでは、メイド姿でヘヴィディストーションをかき鳴らすBAND-MAIDにも、その傾向が強く見える。ただ、ベイビーレイズJAPAN、LoVendoЯ、アリス十番、BiSなど、ロックなアイドルが近年次々と誕生しているのは、制作者側が“ギャップ萌え”を意図した結果だけではない。昨今の音楽マーケットが、さらに言うなら音楽カルチャーがロックを求めているのだ。

 CDの売り上げは年々冷え込み、特典という名の各種“ドーピング”を施さなければ、ペイできる実売を稼げないのが現在の音楽シーンだ。そんななか、生のステージを楽しむ「ライブ」だけは着実に動員を増やしている。これは、音楽シーンに限らない。演劇やお笑いなども、ユーザーの「ライブ志向」は強まっている様子だ。

 CDやDVD、テレビなどで自宅にいながら気軽にエンタメを“視聴する”楽しみ方から、わざわざライブハウスや劇場に足を運んで“体感する”楽しみ方へと、ユーザーの志向・嗜好は確実に変化している。受け手側は、より強烈に臨場感や一体感が味わえる「生」を求めているのだ。圧倒的な音圧と駆け出したくなるような疾走感によって、耳だけではなく体に音楽を伝える「ロック」というジャンルは、こうした「ライブ志向」にハマりがいい。それこそが、ロックなアイドルが増えている本質だろう。
 
 平日のアフター5にコンサートや舞台を楽しみ、そのあとでゆっくりと食事をする。かつて、欧米先進国におけるエンタメの楽しみ方は、「別世界」として伝えられた。今、日本においてもそうしたスタイルは、主流になりつつある。音楽や演劇といったショービジネスが、文化として一層成熟してきたということなのかもしれない。成熟の波は、アイドル業界にも間違いなく影響を与えている。

【リアルライブ・コラム連載「アイドル超理論」第4回】

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