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◎やくみつるの「シネマ小言主義」 テロの脅威という「キツイ」現実『ホテル・ムンバイ』

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提供:週刊実話

 人の「死」は映画の最大のテーマの一つです。その潮流を振り返りますと、まずはドンパチやる西部劇。そして、戦争映画。それから、肥大化しすぎた文明のしっぺ返しのような死を描くパニック映画。『タワーリング・インフェルノ』とか『ポセイドン・アドベンチャー』の類いですね。

 今、その流れはテロに行き着いてしまった。実に嫌な時代になりました。いつ、どこで起きても不思議はないテロ。怖すぎる…と思いながら見た本作は、2008年にインドの五つ星ホテルを中心に起きた同時多発テロ事件を描いています。

 もちろん映画の主題は、1人でも多くの宿泊客の命を救おうと闘ったホテルマンたちへの讃歌なわけです。だから、どうしたってイスラムの武装勢力に洗脳された少年兵たちの背景は、通り一遍の「悪」としてのみ、浅く描かれます。これがイスラム武装勢力側の怒りを買い、また次の火種になりはしないかと、つい心配になってしまいます。

 辺境地に旅するのが趣味なものの、臆病な自分ですから危ない場所には決して立ち入りません。それでもかつて訪れた地が、そののち戦禍やテロの現場になることも。となると、自分もいつ被害に遭うやもしれぬと、リアルにゾッとするわけです。

 本作について、一言で言うとすると「キツイ」。

 京アニの事件のように、ここ日本でも憎悪の連鎖やテロが日常の中に起こり得る時代になってしまいました。見た人は制作側が意図するよりも、遥かに大きな恐怖心を覚え、我が事のように考えさせられるでしょう。もはや映画の中の絵空事じゃない。これが怖いではなく、キツイと感じる理由です。

 そして、どうしても気になることがありました。

 世界中の富裕層が泊まるホテル・ムンバイでは、VIPへの特別な待遇がホテルマンたちの身に染み付いていました。話がちょっとそれますが、先日、テーラーが主人公の小説を読みました。自分の祖父も、田舎で仕立て屋の仕事をしていたので、その話に興味を持ったのです。ただ、いくら腕のいい職人が精魂を込めて仕立てたスーツとはいえ、結局、1着100万円以上する服を着たがる輩なんて、まぁ、ろくでもないわけです。

 本作でもまた思ってしまったのですが、政治家だか富豪だか知りませんが、VIPへのことさらのおもてなしが、ホテルマンのプライドなの? と反発心が沸き上がってしまうのです。テロ側の論理に共鳴しているわけでは決してありませんが、自分は根っからプロレタリアなんですねぇ。

画像提供元:(c)_2018 HOTEL MUMBAI PTY LTD, SCREEN AUSTRALIA, SOUTH AUSTRALIAN FILM CORPORATION, ADELAIDE FILM FESTIVAL AND SCREENWEST INC

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■ホテル・ムンバイ
監督/アンソニー・マラス 出演/デヴ・パテル、アーミー・ハマー、ナザニン・ボニアディ、アヌパム・カー、ジェイソン・アイザックス 配給/ギャガ 9月27日(金)TOHOシネマズ日比谷他全国順次公開。
■臨月の妻と幼い娘がいるアルジュン(デヴ・パテル)は、インド・ムンバイの五つ星ホテルで働いていた。2008年11月26日、突如、テロリストに占拠される。500人以上が人質となる中、テロ殲滅部隊が到着するまでに数日かかるという絶望的な報せが届く。アルジュンら従業員は宿泊客を救う道を選ぶ。テロリストたちに支配される極限の状況下で、人々の「誇り」と「愛」を懸けた、3日間の脱出劇。

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やくみつる:漫画家。新聞・雑誌に数多くの連載を持つ他、TV等のコメンテーターとしてもマルチに活躍。『情報ライブ ミヤネ屋」(日本テレビ系)、『みんなのニュース』(フジテレビ系)レギュラー出演中。

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