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【不朽の名作】ちょっと過激な作品を観たい人にオススメ「丑三つの村」

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 1983年公開の『丑三つの村』は、「津山三十人殺し」「津山事件」などと呼ばれる1938年に岡山県で実際に発生した連続殺人事件を題材としている。つい最近まで短時間で殺した人数のギネス記録だったり、横溝正史の小説『八つ墓村』のモデルになったとされているあの事件だ。公開当時は、その過激すぎる内容からR-18指定を受けた。ちなみに、現在ソフト化されているものはR-15指定に下がっているが、現在でもここまで過激な描写のある作品は少ない。何か尖った作品を観たいという人にはもってこいだろう。

 同作の監督は、にっかつロマンポルノで名匠といわれた、田中登監督が担当。脚本も当時はピンク映画などでシナリオ担当として活躍していた西岡琢也氏が務めている。当時は、邦画界にピンク映画で名を馳せたクリエイターたちが続々と進出して話題なった時期で、同作もその一作品といえる。

 現在で似たような例をあげると、とはいっても一部の人にしかわからないかもれないが…。虚淵玄氏、麻枝准氏、タカヒロ氏など、アダルトゲーム界で有名だったクリエイターが、一般のアニメ作品やゲームに進出して話題になるのと似たような動きだ。共通しているのは、その業界が全盛期のクリエイターで“エロシーンが入れば”比較的自由な内容の作品を作って良いという点で、その環境により尖った才能が生まれたというとこだろうか。

 話がそれてしまったが、この作品で注目なのが、当時の「村社会」特有の環境の演出だ。ここの辺りはロマンポルノなどで培った、重苦しい閉鎖的な空気作りというものが、かなり効果的になっている。表にはなかなか出てこないが、そこで密かに行われている相互監視。村八分などの私刑行為。または夜這いといった風習。そのどれもが、後々に主人公の凶行に関連してきている。どろどろした人間関係が嫌な人には、それこそ、嫌悪感のあるものと映るだろう。

 古尾谷雅人演じる、主人公である犬丸継男もその村社会の人間ではあったが、秀才ということで特別扱いを受けていた。しかし、新兵検査で結核であることが発覚して以降、その陰湿な攻撃を自身が受けることになる。実はこの作品、かなり主人公寄りに作られている。別に作品としては普通なのだが、同作では実在の犯罪者をモデルにしているという点で異質といえる。犯人が自殺しており、事件に関わりのある当事者がほとんど殺害されてしまったからこそ、可能だった題材かもしれない。

 主人公にも落ち度はあるのだが、それ以上に村人の嫌がらせが露骨で、たぶん怒りっぽい人ならば、「もうやっちまえ!」と主人公を応援したくなってしまうだろう。おそらく、ロバート・デ・ニーロ主演の『タクシードライバー』の主人公・トラヴィスよりも逃げ場がない。しかも、この作品の主人公はかなり性格が繊細で執着心が強いときている。一線を超えた後の徹底ぶりは強烈だ。一応、主人公には田中美佐子演じる、やすよという幼なじみの理解者がいるのだが、そのやすよも、村のしきたりなどで縛られて自由には動けず、結果的には凶行に駆り立てる一因を作ってしまう。古尾谷の演技も徐々に病んでいく主人公の表情をよく表現している。凶行に及ぶ前の万歳三唱のシーンなどは特に注目。

 クライマックスのノンストップのバイオレンスシーンは、殺人鬼の犯行シーンではあるのだが、どこか爽快感を感じてしまうところもあるのが特徴だ。これは中盤以降ひたすら続く、村人の嫌がらせのおかげだろう。鬱々溜まったエネルギーをここで一気に噴出させてくれる。ラストとしては、色々な意味で盛り上がることのできるシーンだろう。とある部分がスイカみたいに散弾銃で吹き飛んだり、とある部分に銃口を突っ込んで発射するなど、多彩な殺戮シーンもある意味では見どころ。

 バイオレンスシーンに加えて、この作品では、夜這いシーンなどで裸体の描写も非常に多い。登場する女優も大場久美子、池波志乃、五月みどりなど、当時の人気女優たちが起用されおり、結構激しい濡れ場を披露している。裸体の撮り方が非常に艶めかしく、キレイなので注目して欲しい。しかし、「こんな美人ばっかり村にいるわけねえだろう」というツッコミは野暮かもしれないが、もう少しイモっぽい雰囲気があっても良かったかもしれない。高級娼婦じゃないんだから。夜這いシーンだけ田舎の村感を感じないのが若干気になる。

 「エロ」と「バイオレンス」を売りにしている作品というと、どこか薄っぺらく感じる人もいるかもしれないが、そこはただの見世物にはなっていないかと。おそらく主人公の心境をどう読み取るかによって、作品の印象は大きく変わってくるはずだ。青臭い主人公の部分が印象に残れば、まるで青春映画のようだし、村の古い風習に虐げられる主人公が強く残れば、復讐劇になる。また、ただ村人がムカつくな、エグいなと思ったならば、ひょっとすると食人映画であるあるネタである、どっちサイドが野蛮だ問題に発展するかもしれない。

(斎藤雅道=毎週土曜日に掲載)

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