中国軍部に詳しい事情通が言う。
「粛清された郭氏は、胡錦濤前国家主席時代から230万人に及ぶ人民解放軍を率い、一時は中央軍事委員会第一副主席にまで上り詰めた“軍部のドン”。その人物が突如、拘束され、郭派閥ともいえる人民解放軍の約半数に不穏な空気が漂っている。一歩間違えば習主席に対する暗殺クーデターが起きかねない状況で、習氏もそれを覚悟でこの粛清に踏み切ったと見られているのです」
複数の関係筋の話を総合すると、習政権が郭氏を拘束した理由は汚職の疑い。すでに軟禁状態だった同氏を、4月9日に党中央規律検査委員会幹部が身柄拘束を通告したことが判明しているが、実はこの軍部粛清の動きは、それ以前から蠢き始めていたのである。
「発端となったのが、今年3月に立件された郭氏の息子、郭正鋼浙江省軍区副政治委員の収賄容疑です。指導部は息子を締め上げ、郭氏が軍事委副主席時代に部下から賄賂を受け取り、昇進や軍用地の転売などに便宜を図った容疑を固めたというのです」(同)
また、習政権は昨年6月にも軍部を粛清。膀胱がんで病床にあった人民解放軍のナンバー2・徐才厚氏(今年3月に病死)をも、収賄で失脚させているのだ。
「“東北の虎”と呼ばれた徐氏は郭氏に次ぐ軍の実力者だったが、指導部は同氏が病気療養中であるにもかかわらず、他の軍幹部に気づかれないように電撃的に拘束した。この時にも『習主席は、胡錦濤政権の息がかかった軍幹部を根絶やしにするつもりか!』との声が上がり、一時、軍内部には不穏な空気が蔓延したほどなのです」(同)
もっとも、習氏がこうした策略に打って出た裏には、背に腹は代えられない理由が存在するという。
実は習政権下では、同主席を狙う暗殺未遂事件が頻発しているともっぱらなのである。
全国紙の北京特派記者が言う。
「習政権は汚職官僚の撲滅を矢継ぎ早に進めているが、この政策への反発からか、すでに同氏を狙った暗殺未遂事件が6回も起きていると評判なのです。その直近の事件とも言えるのが、今年2月に陝西省西安市で起きた爆弾テロ。この時、習氏には同地の視察スケジュールが組まれていたが、宿泊予定のホテルに爆弾が仕掛けられ、それが事前に発見されたというのです」