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連載ラノベ 夢ごこち(18)

 伯父さんと、私と、健太君は、つり橋の前で、立ち止まっていた。今に思えば、橋は短かった気がする。

 けど、挿絵がついた本やテレビのほかには、つり橋を見たことがなかった私には、大きく見えた。

 伯父さんが、振り向いた。私も、後ろを見た。山に日がさしていて、斜面の緑が一斉になびいた。空は、どこまでも透けて見えそう。
 辺りに、人はいなかった。

 「よし」
 そう口に出した伯父さんは、いつもの声に戻っていた。私は、伯父さんを見上げた。 伯父さんも、私を見ていた。
 伯父さんが、いつもよりも優しい声で、言ってきた。
 「よし、美雪ちゃん、三人で、いっしょに渡ろう」

 伯父さんは、橋の右側でロープをつかんだ。空いたほうの手を、内側を歩かせた健太君とつないだ。私は、伯父さんと健太君から離れて、橋の左側を歩いた。

 少し進んだ場所で、ロープをつかみながら、いったん立ち止まった。汗が頭の地肌を伝った。ふきたかったけど、まだ、片手を放すのが怖かった。

 健太君は、足もとをじっと見ていた。橋が揺れた。健太君が、足の裏で橋板を踏みつけながら、こらえた。
 揺れが収まると、健太君は、半歩、足を前へ進めた。

 伯父さんが声を掛けてくれた。
 「美雪ちゃん、大丈夫」

 体を全部、橋の上に乗せた時は、谷底に転げ落ちるような気になった。けど、手すりになっているロープがあまり揺れないことがわかってからは、それほど、怖くなくなった。

 「大丈夫」
 答えて、伯父さんを見た。伯父さんは、健太君を見ていた。健太君は、伯父さんに片手を引っ張り上げられるようにした姿勢のまま、その場で足をふんばっていた。

 伯父さんが私を見た。
 「美雪ちゃん、気をつけて」

 あとで聞いた話だと、最初、伯父さんは、二回に分けて、私と健太君をそれぞれ胸に抱き上げて、橋を渡るつもりだったらしい。

 けど、「こっち側でも、あっち側でも、子どもを独りにして残しておくわけにいかないから」三人いっしょに渡ることにした。夜に、食卓で、おばあちゃんたちに、そう話していた。

(つづく/文・竹内みちまろ/イラスト・ezu.&夜野青)

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