この寝耳に水の出来事に、誰より驚いたのが、秋季キャンプに備えていた掛布氏本人だ。阪神OB会長の川藤幸三氏も「一体、何があったんだ」と虎番記者に逆取材するなど、こちらも青天の霹靂。多くの阪神OBたちは、いずれ「掛布政権」樹立の暁には、それに続いて自らもコーチとして入閣することを期待していた。
それがカープ出身の金本監督による長期独裁政権とあっては、戸惑いを隠せない。なぜなら、これまで以上に矢野燿大作戦兼バッテリーコーチや片岡篤史打撃コーチなどの“外様”が幅を利かせるのが確実だからだ。
ネット裏の記者席では、「星野(仙一)監督時代に逆戻りや。また数年は冷や飯を覚悟せな…」とOB解説者たちの茫然自失の言葉が飛び交い、ショックを隠せない様子だ。
背景にあるのは、金本監督と掛布二軍監督の“野球観”の違いだ。鉄拳制裁すら辞さない赤ヘルで鍛え抜かれた鉄人と、人気球団で育った天才指導者。同じ雑草男とはいえ、育った環境が違う。しかもタイガースは、坂井信也オーナーが親会社・阪急阪神ホールディングスの役員と阪神電鉄の取締役会長を退任するなど、大きな転換期を迎えている。
「'06年に経営統合してから、阪急は阪神グループの主導権を握り、最近では球団経営にも介入しています。今年3月末で阪神電鉄会長を退任した坂井氏ですが、タイガースのオーナー職だけは続投し、阪神色のフェードアウトに努めてきた。外様の金本氏を擁護するのもそのためです。阪神の象徴で、存在が大きすぎる掛布氏が目障りだったのでしょう」(スポーツ紙デスク)
気の毒なのは、掛布氏には千葉ロッテから監督のオファーが届いていたことだ。8月13日に伊東勤監督がリーグ戦最下位の責任をとる形で、今季限りでの辞任を表明。後任監督にもっとも期待されていたのが掛布氏だった。
「掛布氏は千葉県出身。地元ゆえにファンが多く、ロッテはかねてから監督就任のオファーを出していました。千葉県出身の長嶋茂雄巨人軍終身名誉監督が、『監督として面倒を見てほしい。私が太鼓判を押す』と推挙していたのです。掛布氏にとって、長嶋氏は神様のような存在。しかし、今回も二軍で手塩にかけて育てている中谷将大らの若手成長株や、今季からスイッチに転向した大和らのことを思い、断ったそうです。今なら受けたかもしれませんが、すでにロッテはOBのフランコ氏と今季限りでの現役引退を表明している井口資仁に候補を絞り、契約交渉の最終段階に入っている。掛布氏にスイッチするのは時間的に難しい」(長嶋氏と親しい放送関係者)
そんな行き先を失った掛布氏に対し、浮上してきたのが、巨人軍の打撃コーチ就任だ。阪神の四藤慶一郎球団社長は、球団アドバイザーという玉虫色の役職でタイガースに囲い込む予定だが、掛布氏にとってはもはや阪神に未練はない。巨人のユニホームを着て金本阪神と対決したいと望んでいるという。橋渡し役は、長嶋氏である。
巨人の老川祥一オーナーは9月13日のオーナー会議後、高橋由伸監督の続投を明言した。今季が仮に4位以下に終わっても「来季も高橋監督」でいくという。そこには、最大の課題だった打撃部門のテコ入れを掛布氏招請で図れる、という戦略が織り込まれている。
掛布氏は日本テレビをはじめ、読売系のメディアで解説者を務めてきた。過去にも巨人コーチの誘いはあったが、阪神への義理立てなどから辞退していた経緯がある。しかし、その配慮も無用になった。
「ここ数年、巨人は貧打にあえいでいます。ベンチやファームには阪神をしのぐ好素材がゴロゴロいるだけに球団の期待は大きい。掛布氏は“若手を鍛える”広島方式ではなく、選手を褒めて力を引き出すタイプ。“育てながら勝つ”阪神では不完全燃焼に終わったが、巨人ならカリスマ性が相乗効果をもたらします。ヘッドコーチで迎えるという話も出ています」(日本テレビ関係者)
9月28日の広島戦が二軍の今季の最終戦だ。阪神は鳴尾浜から甲子園に試合会場となる球場の変更を決めている。現役時代からつけてきたタテジマの「31」のユニホーム姿が見られるのは、この日が最後となる。
次の「掛布コール」は東京ドームで!?