「言葉巧みに猫をだまし取り、殺傷の態様は残虐で悪質極まりない。被害者の受けた精神的苦痛は計り知れない」
虐待目的で猫を譲り受けたとして、動物愛護法違反と詐欺の罪に問われた無職・広瀬勝海被告(45)の判決が今年5月、横浜地裁川崎支部で下された。被告が患っている躁鬱病の影響も否定できないとして執行猶予がついたものの、冒頭のように裁判官は厳しく断罪したのだった。
広瀬被告は昨年11月1日〜6日、猫の里親を探していた女性3人から、殺傷目的で猫5匹を詐取。3匹を踏みつけたり壁に叩きつけたりするなどして殺し、2匹を傷つけたという。
社会部記者が言う。
「インターネットを介して複数のボランティアに接触し『野良猫に不妊手術を施すボランティアをしている』と猫をだまし取っていました。単純な虐待事案ではなく、動物を愛護する善良な市民の思いを踏みにじったもので、悪質極まりない犯行でした」(社会部記者)
しかし一方で、ボランティアをするほど動物好きでありながら、譲渡相手の素性も確認しないずさんさも明らかとなり、被害者からは「なぜ渡すときに虐待目的だと気付かなかったのか。猫たちに怖い思いをさせて本当に申し訳ない。取り返しのつかないことをした」といった後悔の声も聞こえた。
民間消費者相談窓口『SP解決センター』の山内俊介氏が言う。
「この件でもそうですが、相手の善意を信用して、氏名、住所、電話番号を確認しない人も少なくありません。里親探しでは、2週間くらいのお試し期間を設けることも必要なんです」
現代社会は少子高齢化が進み、ペットを購入する家庭が増えている。
「ブームに伴い、動物病院や美容室、ホテルや葬儀屋などのペット対象サービスが提供される機会が増えました。それとともに、飼い主の心情や動物への愛護心につけ込む悪質な商法や詐欺が横行しているのです」(同)
山内氏によると、悪質なペット詐欺には里親詐欺のほか、葬儀詐欺、ペットモデル詐欺、募金詐欺、差し替え詐欺、珍種売りつけ詐欺などがあるという。
「中でも葬儀詐欺の被害は多い。東京都消費生活総合センターによると、焼却炉を完備した車で飼い主の自宅まで出張した業者が、ペットの死骸を焼却炉に入れた後に数十万円の高額料金を請求してくるケースが多く見られるようです」(前出・社会部記者)
この場合、飼い主が「話が違う」と拒否すると、「嫌なら今すぐ焼却炉から出す」「遺骨を返さない」「生焼けでいいのか」などとすごまれ、法外な金額を請求されるという。
「葬儀業者は異なっても、手口は共通しています。大概はホームページなどで小動物から大型犬までの体重別の料金が表示され、『他の料金は一切かからない』と謳っていますが、ペットを焼却炉に入れた“後料金”が請求されるのです」(同)
中には、大型犬で「火葬料6万円」としていたのに、40万円も請求され、拒否すると残額を支払う念書を書かされたケースもあるという。
また、ペットの死骸を業者が引き取る場合でも、次のようなケースがある。
今年4月、埼玉県飯能の正丸峠付近で犬猫約100匹の死骸が捨てられていた。県警生活環境2課と飯能署は、廃棄物処理法違反(不法投棄)の疑いで、元同町の町議でペット葬儀業『花園ペット祭典』経営、阿部忍容疑者(71)を逮捕。阿部容疑者は「悪いと思いながらやってしまった。火葬は費用がかかり、手元に残るのはわずか。投棄すれば全部自分のものになった」と供述している。
これに似た例は、『SP解決センター』にも寄せられている。
《長年飼っていた愛犬が亡くなり、業者さんに依頼しました。葬儀は無事に済み、火葬を行うとのことで業者さんに預けました。しかし、その後一向に連絡がなく、こちらから業者へ電話をして遺骨が欲しいとお願いしましたが、複数のペット達と一緒に火葬を行っており、遺骨はすでに埋めたのでもうないと言われました》