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今や日本の“国民病”の一つ 急増する「味覚障害」と脳の異常との関係(1)

 秋は食欲をそそり、味覚を楽しむ季節だ。ところがいくら旨い物を口にしても「味がわからない」「何を食べても苦く感じる」など味の感覚がつかめない“味覚障害”を起こす人がこのところ急増、年間10数万人もいるといわれている。その原因はさまざま。食生活の乱れによるものから、溶血性貧血、糖尿病、肝不全などの病気、心因性ストレスなど多岐にわたると専門家は説明する。
 中には『顔面神経麻痺(まひ)』に襲われたため診察を進めていくと、味覚障害と脳梗塞が関わっていることが判明するといった怖い症例もある。

 その『顔面神経麻痺』といえば、前中日ドラゴンズ監督の落合博満さん(58)がなったことで話題となった。ご本人はテレビや講演先で告白して、周りを驚かせている。
 「何を食べても味がしなかったので“おかしいな”と思っていた。翌朝、鏡を覗き込んで見たら顔が変わっていたので、慌てて医者のところへ行ったんです」
 医者からは「脳梗塞の疑いがある」と言われる。味覚についても『味覚障害』を起こしていると診断されたという。

 落合さんが感じたような味覚障害は、ある日突然、自覚することが多い。
 新潟大学病院の元栄養管理士で料理研究家・林康子さんは、次のように説明する。
 「味覚障害を訴える患者さんは本当に増えています。間違いなく生活習慣病(成人病)とならび、今や日本の“国民病”の一つになっていると思います。味覚異常障害は古くから知られている症状ですが、食欲不振になったり、極度のストレスで起こったりしますし、中には老化現象としての障害もあります」

 林さんによると、味覚障害に陥るタイプの人も時代とともに変わってきているという。最近の傾向として見逃せないのが、10代、20代の人に味覚障害が増えている事だ。
 とくに若い女性にそういった症状が多く見られる。あるマスメディアが女子大生を対象に調査したところ、半数近くが味覚障害の疑いある、とのデータが出た。そして、原因の多くが亜鉛不足にあったという。
 「若い皆さんがよく食べるファストフードやコンビニ食品、清涼飲料水などに含まれるフィチン酸やポリリン酸などの添加物は、亜鉛の吸収を妨げる作用があります。また、過激なダイエットも栄養が偏りがちによる亜鉛不足で味覚障害の原因になっています」(前出・林康子さん)

 そもそも味覚には、甘味、塩味、酸味、苦み、うま味といった5つの基本的なものに分けられる。舌や上顎(うわあご)に『味蕾(みらい)』という器官があり、そこで味を感じるわけだ。『味蕾』という細胞を顕微鏡で見ると、花の蕾(つぼみ)に似ているところからそんな名前が付けられた。
 『味蕾』は、その食べ物が「おいしい」「おいしくない」を識別するだけでなく、人間が生きるために必要な物質を体内に取り込み、有害な物は入らないようにする自然の摂理を司っているところでもある。
 味覚は、人間が生きていく上で絶対的に欠かせない「食べる」という行為と密接な関係がある。だから味覚に狂いが生じると偏食や食欲不振などに陥ってしまうのだ。

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