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球界地獄耳・関本四十四の巨人軍、ダッグアウト秘話(23) 四大条件

 大キャッチャーの条件は「頭が良くて、記憶力に優れ、猜疑心が強く、ケチでないといけない」。オレはそう思っている。V9巨人を支えた森昌彦(現在は祇晶氏)という捕手は、ノムさん(野村克也氏=前楽天監督)と共通して、その四大条件を満たしている。

 ある時に広島の宿舎だった世羅別館で、同室のオレとカズミさん(高橋一三)、ホリさん(堀内恒夫氏)の3人で、一三さんが広島球場で打たれたホームランの昔話をしていたんだよ。そうしたら、偶然、廊下を通った森さんが「あれは、一昨年の試合でシュートと言ったのに、カーブを投げて打たれたんだ」と言って、そのまま立ち去ってしまった。オレとホリさんはすぐに小松ちゃん(俊広氏=巨人のV9を支えた名スコアラー)に確認に行ったら、その通りだった。うなるしかなかったね。
 「8番・キャッチャー、森」は、数字だけ見れば、たいしたことはないよ。生涯打率は2割3分台だし、盗塁阻止率にしても、とんでもない数字ではない。が、130試合のトータルとなったら、誰も森さんにかなわない。それに大勝負にも強かった。V7の時は下馬評では阪急が絶対有利で、森さんの肩では福本の足を封じ込めないと言われていた。が、対福本用の肩作りをして、予想を覆したからね。慶大の大橋さん(勲氏)、立大の槌田さん(誠氏)といった、六大学のそうそうたるスター捕手が入ってきたが、ついに森さんを抜くことはできなかったのも無理はない。

 ここ一番、絶対にホームランを打たれてはいけない場面では、石橋を叩いて渡るリードを徹底するのが森さん流だ。オレはシュートピッチャーだから、インサイドを突きたいのに、外角へ逃げていくスライダーのサインしか出さない。実は、これには裏話もある。「シュートで内角をきわどく突きすぎると、ONが報復されるからな」と、森さんは言うわけだ。球界の至宝であるONに何かあってはいけないという、説得力のある、もっともらしい説明だ。が、本当は自分が報復されるのが怖い。だから、内角へのえげつないシュート攻めを嫌う一面があった。
 当時の巨人では節目、節目の試合で、投手が捕手を指名できた。森さんが藤尾さん(茂氏)を抜いて、正捕手の座をつかんだのも、エースの藤田さん(元司氏)が投げる時に指名したのがきっかけになっている。
 オレは捕手を指名できる時にはヨッサン(吉田孝氏)にした。強気のリードでインコースにどんどんシュートを投げさせてくれるからだ。そうすると、いつもはブルペンに来ない森さんが、「きょうは吉田だから、頑張れよ」とわざわざ言いに来る。自分が指名されないことを気にしているんだよね。嫌みでもあるんだ。若い投手には厳しかったからね。サイン間違いなんかすると『目が悪いんじゃないか、お前』と怒って、本当に病院へ行かせていたよ。

 大捕手の四大条件の「頭が良くて、記憶力にすぐれ、猜疑心が強い」の最後に当たる、「ケチ」に関する森さん伝説の数々はすべて事実です。ここでは、出身地にちなんだ『岐阜の貯金箱』という、ニックネームを披露するだけにとどめます。
 名捕手として川上監督を支え、西武の監督としてV9野球を再現した森さんに最後に注文したい。ハワイで隠遁生活などしていないで、日本で大捕手コンビのノムさん相手に丁々発止のやりとりをしてもらいたいよ。ノムさんの一人天下にしないでね。

<関本四十四氏の略歴>
 1949年5月1日生まれ。右投、両打。糸魚川商工から1967年ドラフト10位で巨人入り。4年目の71年に新人王獲得で話題に。74年にセ・リーグの最優秀防御率投手のタイトルを獲得する。76年に太平洋クラブ(現西武)に移籍、77年から78年まで大洋(現横浜)でプレー。
 引退後は文化放送解説者、テレビ朝日のベンチレポーター。86年から91年まで巨人二軍投手コーチ。92年ラジオ日本解説者。2004 年から05年まで巨人二軍投手コーチ。06年からラジオ日本解説者。球界地獄耳で知られる情報通、歯に着せぬ評論が好評だ。

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