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俺たちの熱狂バトルTheヒストリー〈格闘王vs人類最強の男〉

 日本のリングに上がった世界的な有名格闘家というと、まず名前が挙がるのはマイク・タイソンやモハメド・アリ、あるいはロベルト・デュランなど、ボクシング史に名を残す世界王者たちになるだろう。
 だが、それらと比べて勝るとも劣らないのが、リングスに参戦したアレキサンダー・カレリンだ。このときカレリンは、レスリングのグレコローマンスタイル130キロ超級で五輪3連覇、世界選手権8連覇。翌年にも世界選手権を制し、通算で国際大会12連覇、'13年間無敗の記録を打ち立てている。

 '12年に吉田沙保里が国際大会13連覇を果たした際には、“カレリン越え”などと言われたが、やはり女子軽量級と男子最重量級では“強さ”の意味が違う。
 「日本では“人類最強”と呼ばれるカレリンですが、海外では“The Experiment(エクスペリメント)”のニックネームがある。直訳すると“実験”ですが、そのニュアンスは“人類がどこまで強くなれるかを体現している”という感じでしょうか」(スポーツ紙記者)

 その超人的逸話は枚挙にいとまがない。レスリングで試合中に注意を受けた選手が、マットに四つん這いになって相手に背中を取らせるパーテールポジション。伏せた側は懸命にこらえるため、攻める側も簡単には崩せないのが普通だが、カレリンはそこから相手をぶっこ抜いて投げ飛ばす。
 これぞ“カレリンズ・リフト”と称される必殺技。一般には俵返しと呼ばれるが、カレリンに限ってその名を冠せられたのは当然だろう。
 体重130キロといえば大相撲の日馬富士がこれに近いが、伏せて耐える横綱を後ろから抱え上げ、反り投げする姿を想像すれば、いかに人間離れした力技か分かるだろう。
 神話の時代でもあるまいし、記録の残る近現代でそれを現実にやってみせたのは、あとにも先にもカレリンをおいて他にいない。

 そんな“生きる伝説”が、唯一、他流試合のマットに上がったのが、前田日明の引退戦であった。
 前年にはすでにリングス・ラストマッチと銘打って、引退セレモニーを行っていた前田であったが(対戦相手は弟子の山本宣久で、前田の判定勝利)、最後にもう一戦、大物との戦いを求めて交渉を続けていた。

 当初、標的としたヒクソン・グレイシーは、前田ではなくPRIDEでの高田延彦との再戦を選んだ。それと並行してカレリンと交渉していたが、名実ともにヒクソン以上の大物だけに、こちらも難航が伝えられていた。
 「相手はレスリング界の神様的存在。まさか出てくるなんて、関係者の誰もが信じていませんでした」(同)

 試合形式は5分2R、ダウンとロープエスケープでポイントを失う、いわゆるUWFルールだった。だが、そんな慣れない場にも神はまったく動じず、これからスパーリングでもするかのようなスウエット姿で、笑みを浮かべながら入場した。
 試合開始と同時に、前田からキックで攻められるが、これにも表情を変えることなく、レスリングの構えのままにじり寄っていく。
 のちに前田本人が「ベストのタイミングだった」と語ったタックルも、まったく通じず、そのままがぶって前田の肉体(体重117キロ、身長191センチ)を、まるで木偶人形のように振り回した。
 1Rの中盤になんとか脚関節を取った前田だが、カレリンはあっさりとロープエスケープで難を逃れる。これで先制のポイントは奪ったものの、前田の攻勢はこのときだけだった。

 以後はずっとカレリンの独り舞台で、前田をもてあそぶかのようにマットの上に転がすと、こらえる間も与えずにカレリンズ・リフトで投げ飛ばす。関節を極めるわけでもなく、ただヒジをつかんで仰向けの顔面に押しつけると、前田は身じろぎもできず、レフェリーから何度もギブアップをうながされた。
 結果、袈裟固めで2度のエスケープを奪われた前田の判定負け。力量の差は歴然であったが、それは前田も最初から分かった上でのことだった。
 “世界最強の男はリングスが決める”との言葉通り、前田らしい引退戦であったと言えるだろう。

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