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ベールを脱ぐトランプ恫喝に戦々恐々の日本自動車メーカー

 「我々は今後5年間だけでで(アメリカに)さらに100億ドル(約1兆1600億円)を投資する」
 1月9日、アメリカ・デトロイトで開かれた北米国際自動車ショーで、トヨタ自動車の豊田章男社長は巨額投資を力強くアピールした。
 このニュースに触れた世界中の人たちすべては、世界一の自動車企業のトップの言葉が誰に向けられたものか理解していた。もちろんそれは、アメリカ次期大統領、ドナルド・トランプ氏だ。

 自動車業界アナリストがこう言う。
 「トランプ氏は次期大統領に決まった直後から、ツイッターによる“トランプ砲”で、自分の意に反する企業を次々とヤリ玉に挙げてきた。例えば、アメリカを代表する大手航空企業のボーイングには、昨年12月初旬に大統領専用機エアフォースワンが高すぎると噛みつき、ロッキード社にもステルス戦闘機F35のコストが高いとぶっちゃける。これに対し、両社のCEOは即座にトランプ氏に白旗を上げて値下げを確約。ボーイング社に至っては、大統領就任式に向け1億円の寄付まで申し出たほどです。これにトランプ氏も態度を一転させ、褒めたたえた」

 自分の発言の威力に気をよくしたのか、トランプ氏は新年になると、今度は自動車企業を爆撃し始めた。まず、米フォードに対してメキシコでの工場建設を批判。同社も即座に中止を宣言した。
 「その“トランプ砲”が、ついに世界一のトヨタに照準を当て、ぶち込まれた。'19年にメキシコで稼働する予定で、昨年11月に起工式を行ったばかりのトヨタ・メキシコ工場に対し『米国に建設しろ。さもなければ多額の関税を支払え』と脅したのです。それに対しての返答が、9日の豊田社長の1兆1600億円投資話だった」(同)

 トヨタはこの新工場に1080億円を投じ、年間20万台の製造を予定しているため、そう簡単には撤回できない。そこでひねり出したのが、今回のアピールだった。
 このトランプの攻撃に震え上がった日本の自動車企業は、トヨタばかりではない。というのも、日本の主力自動車企業にとってメキシコでの人件費は中国より13%安く、生産コストも5%も低い。しかも'94年に発足したアメリカ、カナダ、メキシコでの北米自由貿易協定(NAFTA)で、それぞれの国同士の貿易品には関税がかけられない。そのためメキシコで製造し、アメリカや海外へ輸出という流れになっているのだ。

 日本の自動車メーカーは日産が3工場で年間83万台、マツダ20万台、ホンダ20万台、トヨタが10万台をメキシコで生産。当然、アメリカ企業も、GM70万台、クライスラー50万台、フォード45万台が製造されている。欧州勢もBMWやフォルクスワーゲンが進出している。
 「トヨタは米工場をメキシコに移転するわけではないため、問題はないと思ったはずです。日産もビックリで、ドイツのダイムラーと組んで1200億円を投じ今年から23万台製造可能な新工場を稼働させる寸前だった。今回のトランプ氏のトヨタ攻撃を見てゴーンCEOは、トランプ氏の政策動向を見極めたいと慎重姿勢に転じつつあります」(シンクタンク関係者)

 トランプ氏にとっては、自分を大統領に押し上げたのは、錆びついた工業地帯(ラストベルト)の支持者という思いが強い。特にミシガン州の中心、デトロイト市はGM本社があり、クライスラー、フォードのビッグ3発祥の地。かつてアメリカの希望と夢、カネをすべて兼ね備えて発展した。そこが日本車の台頭や人件費の安いメキシコ、中国に車関係や製造業がこぞって移転したために凋落を続け、'93年に1兆8000億円の負債を抱え、市は破綻した。
 かくしてラストベルトは、栄華の頂点から米最貧地帯に転落。もともと民主党が強い地域だが、今回は有権者らが“再興の夢”を共和党のトランプ氏に託したのだ。
 「だからトランプ氏も、ラストベルト支持者に一定の成果を見せなくてはならない。そのためには、立候補当時からたびたび口にしてきた日本叩きを行い、特に象徴的なトヨタを吊るし上げる必要があった」(同)

 ただし、トランプ氏の本当の狙いは、TPP同様、NAFTAも廃止かルールの見直しだという。
 「そんなことをすれば国際法違反の可能性もあり、メキシコがWTOに提訴するケースもある。しかし、トランプ氏は企業に恫喝と報復をちらつかせながら、何としてでもNAFTAのルールをアメリカ有利に変更したいのです。そのためには、大企業のひとつやふたつ潰れても構わない腹。日本企業がその騒動に巻き込まれる可能性は高い」(同)

 大統領就任後のさらに激しいトランプ旋風に、各社はしばらく悩まされそうだ。

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