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木の上の焼死体

 日常で遭遇する、小さな驚きをもたらす偶然。それは、時に人を酷く動揺させ死へと追い詰める。

 1980年頃のアメリカ。消防士たちの決死の消火活動により鎮火した森林火災は、アメリカでは珍しくない森林火災の一つとして、すぐに忘れられる筈だった。しかし、焼け跡から発見された一体の焼死体が人々の関心を誘った。木の上、それも、とても人が登れないような高い木の上で発見され、更には傍にシュノーケルの付いたゴーグルがあったことからダイバーらしいということで、ちょっとした騒ぎとなった。

 さて、翌日。消火活動の一端を担った一人の男が自殺した。言わばヒーローとも言うべき男が何故…。

 森林火災が起きる2日前のこと。男はカジノでブラックジャックに高じていた。だが、大負けした男はディーラーに殴り掛かった。森林火災発生の際、男にこのことを思い留め置く余裕はなかっただろう。あったところで運命が変わろうはずはないが。

 男はセスナ機の操縦士だった。消防当局から要請を受けた男は、すぐさま湖へと向かうと湖水を汲み上げ、燃え盛る炎目がけ散布した。同じ時、ダイビングを趣味とするディーラーは湖で潜水中、突然強い力で引きずられ宙を舞った。そして、その強い力から解放されるや、炎の中へと落ちて行った。

 男がセスナでディーラーを引っ掛けたのは偶然である。だが、森林を焼き尽くそうとする炎を鎮めたヒーローも、己の罪悪感を鎮めることは出来ず、頭に当てた銃の引き金を引いた。

(七海かりん/山口敏太郎事務所)

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